「睡眠ホルモンといわれるメラトニンは、目覚めてから15~16時間後に分泌されます。毎朝決まった時間に起きれば、床につくタイミングがつかめるので、起床・就寝のリズムを作れますね。快適な睡眠を得るためには、日中の活動量を上げ、リズムを作ることが大事です。昼寝をするなら15〜30分以内にして、就寝3時間以内はアルコール、カフェイン、たばこなど、睡眠を妨げる要因を避け、就寝1時間前になったら照明を落とすことも有効です。
しかし、仕事のシフトなどにより、規則正しい生活をすることが難しい場合もあるかもしれません。眠れないことを過剰に意識すると、床についた時点で緊張し、かえって寝つけなくなります。そうなる前に最小限の不眠症治療薬を活用し、眠れるという自信をつけることも、不眠症治療の重要な選択肢のひとつです」(内村教授)
不眠症の増加を受けて、現在はさまざまなタイプの不眠症治療薬が治療に用いられている。日本の場合、処方される不眠症治療薬の大半を占めているのが、不安や興奮を抑えるGABA受容体に作用するタイプ。さらに、2010年にはメラトニン受容体に作用し、睡眠のリズムを整えるタイプが発売された。そして今年11月には、まったく新しいタイプの不眠症治療薬が発売された。
「私たちは脳内の『睡眠システム』と『覚醒システム』のバランスで寝たり起きたりしています。通常、寝る時間になると、この『睡眠システム』が優位に働くのですが、眠れないときの脳では、『覚醒システム』が優位に働いています。このシステムを活性化させるのが、オレキシンという神経伝達物質。正常な状態では、オレキシンの量は昼が高く、夜は低くなりますが、ストレスや昼夜のリズムの乱れ、興奮などによって、夜になってもオレキシンの量が下がらないことがあるのです。
今回新しく登場したオレキシン受容体拮抗薬――スボレキサントは、オレキシンの働きをブロックすることによって覚醒レベルを下げ、睡眠を促す作用が認められています。この薬は入眠障害(なかなか寝付けない状態)と、睡眠維持障害(就寝中に度々目が覚めたり、早く目が覚めたりする状態)の両方に効果が認められますし、3~6か月の範囲でなら、途中で服薬を止めやすいこともわかっています。
このスボレキサントの効果はマイルドですが、従来の薬のような、筋弛緩作用による転倒などの副作用が少ないのでは――という点も期待されています。認可されたばかりですから、慎重に投与する必要はありますが、治療の幅が広がったことは間違いありません」(内村教授)
そして不眠治療を成功させるポイントは、重症化・長期化し、治療が難しくなる前に専門医に相談することが大切と、内村教授はアドバイスする。
「不眠症によって疲れやすい、イライラする、昼でも眠いなど、日常生活に支障が出ている場合は治療の対象になります。かかりつけ医の先生や、睡眠学会のホームページに掲載されている専門医や認定施設、あるいは心療内科、精神科などになるべく早く相談してください」