ビジネス

都内担当ヤマト運転手 1日の走行距離は5kmでも拘束14時間

 朝、自宅を出る前にパソコンを開き、ネットで注文した商品が、夜、家に帰るともう届いている。この国で極限まで発達した「宅配便」のスピードは、大手三社の苛烈な競争による結果でもあった。どこよりも早く、安く、そして多くモノを届けようとするこの宅配戦争は、いま「宅配ビッグバン」と呼ばれる臨界点を迎えようとしている。ジャーナリストの横田増生氏が、その現場に潜入した。

 * * *
 私がヤマト運輸の宅急便の下請け業者の軽四トラックの助手席に“横乗り”したのは、二〇一四年早春のことだった。都内の住宅地で宅急便を配達するのは、私と同年代の菊池次郎=仮名。宅急便センターの前で朝の七時過ぎに合流し、約七〇個の荷物を軽トラックに積み込んで出発した。

 荷物には、アマゾンや楽天ブックス、ゾゾタウン、ケンコーコムなどのネット通販のロゴが目についた。ヤマト運輸にとって「最大手の荷主」となったアマゾンの荷物は全体の三~四割程度。

 菊池が真っ先に向かったのは、センターの裏手にある七階建てのマンションだった。三五〇戸を超える戸数があるにもかかわらず、宅配ボックスの数は二〇個強と少ない。ここで荷物を配り終えたのは八時半前後で、宅配ボックスには六個入れた。

「このボックスを佐川や日本郵便に先にとられると、再配達となり手間がかかりますから」  と、菊池はホッとした表情で言った。その言葉を追いかけるように、日本郵便の軽四トラックが到着し、その直後に佐川急便の集配車がやってきた。

 菊池の担当するエリアは約一キロ四方と狭い。ヤマト運輸が取り扱う荷物が多いため、ドライバー一人当たりの配送密度が濃くなっているからだ。宅配業界において、その配送密度の濃淡こそが効率の良し悪しを分けるものであり、利益率に直結する。よって、これまでシェアを取ることが最重要戦略と考えられてきた。

 ヤマトに限らず宅配便のドライバーは通常、受け持ちエリアを、(1)午前中、(2)昼過ぎから夕刻まで、(3)夕刻から夜九時までの三回配達する。配送件数が一番多いのが午前中で、全体の七割前後を配り終える。ヤマト運輸の自社のセールス・ドライバーとなると、昼過ぎから夕刻にかけて、配達と並行して集荷も行う。

 菊池がこの日、三回の配達で合計一〇〇個強の荷物を配り終えたのは午後九時前のことだった。一日の走行距離は五キロにも満たないが、拘束時間は一四時間近くとなった。

※SAPIO2015年1月号

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン