まずは、楽しんだり美しくなったり味わったりする「場」を作ることが目的だという。その言葉通り、ほぼ毎日、料理教室や撮影教室、ダンスにマッサージ、各種セミナーが開かれている。まるでカルチャーセンターのような印象すら受ける。
だから、ここでは家電商品を一切販売していない。
「売らないからこその利点がある」と企画チームのリーダー・海部裕子さんは言い切る。
「セールストークに邪魔されることなく、お客様の生の声に触れることができる。距離がぐんと近くなります。ですから私たちはこの空間を、受発信拠点と捉えています」
客の本音に触れる。雑談、相談、厳しい意見、グチ、批評、提案。そうした声はいずれ次の商品を生み出す力につながっていく。「受発信拠点」とはそういう意味だという。
この「パナソニックセンター大阪」の企画が立ち上がったのは実は2006年頃。その後、同社は経営危機に陥り、大規模な工場閉鎖、リストラ、収益改善が見込めない事業の売却や中止が相次いだ。
しかし、そんな中でも「パナソニックセンター大阪」の企画は立ち消えなかった。
いったいなぜ、大規模な投資が必要であり、しかも直接利益を生まない施設の企画が継続できたのだろうか? 「危機に直面して、会社自体が根底から変わる必要があるとトップが痛感したのです。大阪で最後と言われるこの大再開発地グランフロントへ、つまりお客様の真ん中へ、もう一度飛び込んでいこうと。それこそが弊社にとって大事だと決断したのです」
「お客様の小言は、神の声」という松下電器の原点回帰ここはその象徴的拠点だったということだろう。
※SAPIO2015年1月号