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生きる力と使命感を見出す場 「がん哲学外来カフェ」が盛況

 現在、日本人の2人に1人ががんにかかるといわれる。最近も、俳優の菅原文太さん(81才)が転移性肝がんで、女優の中川安奈さん(49才)が子宮がんで逝った。アメリカでは女優のアンジェリーナ・ジョリー(39才)が乳がん予防のために両乳房を切除したことが2013年に大きな話題になった。

『いい覚悟で生きる』の著者、樋野興夫さん(60才)はがんを専門とする病理学者。研究室にこもって顕微鏡をのぞいてがん細胞を分析するのが仕事だが、本業のかたわら開設した奇妙な名称のカフェ『がん哲学外来カフェ』が、全国で60か所を超えて盛況だ。

「最初からカフェだったわけではなくて、順天堂大学医学部附属の順天堂医院で開設した期間限定の“がん哲学外来”が始まりです。“がん”と“哲学”、なんだかわけのわからない外来だけれど、かえってそれが関心につながったようで反響の大きさに驚きでした」(樋野さん・以下同)

 そんな斬新な外来を立ち上げたのは、がんは治療や手術に対応する医療重視で、患者の心の悩みに寄り添う精神的ケアが不足していること、つまり、がん医療の「隙間」を痛感したからだ。

「がんにかかったことをきっかけに、生きるとはどういうことなのか、人はなぜ生きるのか、という根源的な意味を多くの人が考えるようになります。しかし、人生の悩みや不安は置き去りにされたまま。そうした心に、お茶でも飲みながらゆったり対話するというスタイルで寄り添うことができたら、と始めたのが、がん哲学外来でした。その人にいちばん必要と思う“言葉の処方箋”を出しています」

 当初は、樋野さんが行う約60分の予約制個人面談だった。

「しかし、病院内の外来では、対応する患者さんの数も制限される。そこで、患者でも家族でも、医療者でも、誰もが気軽に訪れて、お茶を飲みながら悩みを打ち明け、おしゃべりすることができる“がん哲学外来カフェ”を街に出て始めたのです」

 カフェといっても常設ではなく、各地で会場もさまざま。月に1回、ボランティアスタッフがサービスしてくれるお茶やお菓子を囲んで語り合う。ただそこにいるだけでいい、心が安らぐといって、顔を出すのを楽しみにする患者もいれば、体調がよくなったのを機にボランティアになって、運営にたずさわる患者も多い。生きる力と使命感を見出す場所。それが盛況の理由だ。

【プロフィール】樋野興夫(ひの・おきお):順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授。1954年、島根県生まれ。愛媛大学医学部卒業後、癌研究所勤務、米国アインシュタイン医科大学留学などを経て現職。2008年、「がん哲学外来」を開設し、「がん哲学外来&メディカルカフェ(通称がん哲学外来カフェ)」を全国で展開。患者と家族を支援する予約制・無料の個人面談「がん哲学外来」をボランティアで行っている。

※女性セブン2015年1月22日号

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