デボラの口調はいっそう熱を帯びる。
「ただし、単なる露出はクリエイティブな行為とはいえません。私の女性器露出は違う。私のパフォーマンスが猥褻なら、『世界の起源』をはじめ女性器を描いた数々の世界的名画もポルノだということになります」
デボラのパフォーマンスについて、オルセー美術館のギ・ゴジュバル館長は、「あの行為は『世界の起源』より、ずっと下品で乱暴」と現地の週刊誌の取材に不快感を露わにした。彼女の行為を報じたメディアでも批判は少なくなかった。
デボラはこう反論する。
「オルセー美術館では『マルキ・ド・サド展』を開催中です。サド侯爵はサディズムの語源ともなった人物で、展示スペースのいたるところで女性器が見られます。そんな展示を許しているのに、館長の私への非難は意味がわかりません」
デボラにとってあの場にいて彼女のパフォーマンスを目撃した人々こそ、最大の理解者だった。
「あのときの観衆の反応には本当に感謝しています。居合わせた女性の中には、涙を浮かべて私のパフォーマンスに喝采を送ってくれた人がいました」
昨年8月、愛知県美術館で開かれた写真展で男性器が写った作品を警察が問題視し、布や紙で覆って展示を続けるという騒動があった。匿名の通報が発端だったという。日本ではその芸術性を問うことなく、「性器=猥褻」と短絡的に捉えて拒絶する人が少なくない。検閲や焚書がまかり通っていた野蛮な時代と何も変わっていないのだ。
※週刊ポスト2015年1月16・23日号