ライフ

すき焼きの割り下有無めぐる東西の違い やや西が優勢な理由

国民的鍋のすき焼き

 冬の国民的鍋のひとつすき焼きに関西流と関東流があることはご存じの方も多いだろう。しかしどこまでが関西流で、どこから関東流なのか。すき焼きの「分水嶺」について、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 それぞれの地方色が色濃く反映される食べ物がある。すき焼きなどはその象徴的メニューだ。関西圏では牛脂をひいたところに、肉を敷く。その上から直接砂糖と醤油をかけて焼きつける。一方、関東のすき焼きは明治期の牛鍋を祖とする。タレで煮る牛鍋に関西風のすき焼きが入ってきて、「割り下」方式の関東風すき焼きができあがった。

 明治生まれのコメディアン、古川緑波のエッセイ『牛鍋からすき焼へ』に明治末期の記述がある。

「その頃は、牛鍋は、ギュウナベと言いました。今でこそ、牛肉すき焼と、東京でも言うようになったが、すき焼というのは、関西流で、東京では、ギュウナベだったんだ」

 一般に関東と関西での食文化の分水嶺――”分食嶺”は北陸三県の両白山地から滋賀県・琵琶湖の東岸を通って、鈴鹿山脈、紀伊山地と垂直に日本列島を縦断する線上にある。納豆を常食する/しないの分水嶺もそこだし、「炒飯」における呼称の「東のチャーハン、西のヤキメシ」問題も同様の線が引かれる。東西を分かつ山地と琵琶湖という日本一の面積を誇る湖が東西の人の行き来と文化の往来を阻んでいたのだ。

 ところが、すき焼きの”分食嶺”はほかのメニューと異なっている。割り下を使わない関西風が、ほかの”食”では関東に飲み込まれがちな愛知県や岐阜県にまで勢力を伸ばしている。すき焼きに限っては、関東風、関西風の分食嶺は東にズレるのだ。起点となる北陸地方は変わらずとも、そのラインは右のほうの岐阜を回りこんで愛知県へと降りてくる。時計の針で言うと5時50分を指すような形でぐるりと迂回する。

 その理由はすき焼きが「牛」の料理だからだ。

 「実は、彦根藩(編注:現在の滋賀県)は、江戸時代に生牛屠畜と牛肉生産を公認していた唯一の藩であった。そして藩内で生産された牛肉の味噌漬や干肉を将軍家や時の老中、諸侯らに献上・贈呈していた」(『牛肉と日本人』吉田忠(農文協))

 彦根牛肉が生産されていたのは琵琶湖東岸の中央やや北部。近江牛で知られる近江はそこから南方に20kmほどくだったところ。他の食べ物なら分水嶺になるはずの琵琶湖東岸が牛肉の生産地だったからこそ、関西風のすき焼きは岐阜や愛知のほうへと広がった。

 すき焼きにおける”西の常識”――「割り下なんてありえへん。”すき焼き”というからには、肉を焼いてパッと砂糖を振って、醤油をちょんちょん、や!」(大阪府・40代・男性)が適用されるエリアは、他の食べ物よりも少しばかり広い。

関連記事

トピックス

「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
グラドルデビューした渡部ほのさん
【瀬戸環奈と同じサイズ】新人グラドル・渡部ほのが明かすデビュー秘話「承認欲求が強すぎて皆に見られたい」「超英才教育を受けるも音大3か月で中退」
NEWSポストセブン
2人は互いの楽曲や演技に刺激をもらっている
羽生結弦、Mrs. GREEN APPLE大森元貴との深い共鳴 絶対王者に刺さった“孤独に寄り添う歌詞” 互いに楽曲や演技で刺激を受け合う関係に
女性セブン
無名の新人候補ながら、東京選挙区で当選を果たしたさや氏(写真撮影:小川裕夫)
参政党、躍進の原動力は「日本人ファースト」だけじゃなかった 都知事選の石丸旋風と”無名”から当選果たしたさや氏の共通点
NEWSポストセブン
セ界を独走する藤川阪神だが…
《セの貯金は独占状態》藤川阪神「セ独走」でも“日本一”はまだ楽観できない 江本孟紀氏、藤田平氏、広澤克実氏の大物OBが指摘する不安要素
週刊ポスト
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン