国内

安倍首相「イスラム国に罪償わせる」発言は非現実的言い逃れ

 イスラム国による日本人人質事件で、安倍晋三首相は一貫して勇ましい発言を繰り返したが、それらの発言を逆手に取られ、慌てたのは安倍首相自身だ。

 イスラム国の身代金要求後に行なったイスラエルでの会見では、「2億ドルの支援は、地域で家をなくしたり、避難民となっている人たちを救うため、食料や医療サービスを提供するための人道支援です」と非軍事の援助であることを強調して「イスラム国との戦い」を引っ込めた。

 ところが、である。安倍首相は人質が殺害された途端にまた主張を変えた。首相声明に「罪を償わせるために人道支援をする」と盛り込んだことで、日本の中東人道支援はイスラム国との戦いの一環であると明確に位置づけたのである。

 少なくとも、イスラム国側に日本のインフラ整備・人道支援を「人質殺害の報復」と解釈する口実を与えてしまった。この方針転換で、現地で活動する日本人の危険も一層高まった。国際政治アナリストの菅原出氏が指摘する。

「イスラム国シンパのテログループは日本とイスラム諸国の穏健な関係を知らない者が大半だから、『日本は十字軍だ。イスラムの共通の敵だ』と宣伝されると呼応する勢力が出てくる。シリア周辺からトルコ南部、アフガニスタンやパキスタンにかけてはイスラム国の協力者が浸透しているから危険度が高い」

 安倍首相は国民にそうしたリスクを負わせる代わりに、イスラム国にどう「罪を償わせる」つもりなのか。首相は国会でこう答弁した。

「犯人を追い詰めて法の裁きを受けさせる」

 警察の捜査本部をシリアに置き、捜査員を送り込んでテロリストを逮捕させるとでもいうのだろうか。非現実的な言い逃れだが、答弁が嘘でないなら、警察庁に指示して、すぐにシリアに向かわせればいい。

※週刊ポスト2015年2月20日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン