年代を超えて客同士が語り合い盛り上がる
よく見ると、その角打ち台はすべて入口から距離を置き、ショーケースの陰に控えめに配されている。「うちは単なる立ち呑み屋ではなく、あくまでも酒屋。これからもその姿勢を貫いていきたいので、その台の配置こそが80年近い歴史を持つ酒屋としての矜持なんです」(北村さん)
つまり、酒類の他に、みそ、醤油、調味料など多様な食品類も扱っている、地元に根付いた典型的な老舗酒屋として、それらを求める馴染みの客に、立ち呑み客の姿が邪魔にならないようにと配慮しているというわけだ。
「だからといって、我々立ち呑み族が肩身の狭い思いをしてるなんてことはないですよ。大将も奥さん(久美子さん)も、いつもレジにいるお母さん(薫さん)も、すばらしい気遣いで自由に楽しませてくれていますから。お互いの家庭の事情をわかりあっている客ばっかりが飲んでいるんで、北村立ち呑み一族郎党と言えるかも(笑い)」(50代、電機系)
みんな自由を謳歌しているようだけれど、角打ち台の上や壁には『立ち呑みの掟』と書かれたメモが貼り付けてある。その最後の文言が“掟を破ったら退場願います”だ。「掟と言ってもねえ。立って呑むべしとか、買い物客の迷惑にならないように呑むべし、店内禁煙といったものでね。それほど苦にはならないことばかりなんでよ。ええ、決まりはちゃんと守ってますよ」(30代、不動産系)