「『シルクロード』の時はマイクロフォンをどれにするかというので、五本くらいテストしました。その時の音声の技師さんがオシロスコープを録ってくださって『あなたは普通の人よりいろんな種類の声が出ている。どれが本当の声ですか』と聞いてきたんです。
それで『実は、これは作った声で……』と説明したら『やはりそうでしたか。それなら、普通のマイクロフォンでは一定の音域しか拾えないから、広く拾えるのにしましょう』と、大きなマイクを用意してくれたんです。だから、あれは生の声に近いと思いますよ。
それから、音楽が良かったですね。ナレーションをやる時には『音楽を先に付けてください』と必ず申し上げています。音楽を後から付けると、僕の声との『調』が合わなくなるんです。人間も普通にしゃべっていると、誰でも『調』があります。それが音楽とぶつかってはいけない。
ですから、『シルクロード』の時も音楽が全て入っている状況で録音しました。『調』を合わせながら、音域の間に声を入れていくような感じです。
ナレーションというのは、音楽と微妙に合って、観ている人たちが聴きながらスーッと流れて消えていくようでないといけません。やっぱり残るのは映像であって、ナレーションが残ってはダメなんですよ」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。本連載に大幅加筆した新刊『役者は一日にしてならず』(小学館刊)と『時代劇は死なず! 完全版』(河出文庫)の発売を記念して能村庸一氏(ドラマ『鬼平犯科帳』などのプロデューサー)と春日氏のトーク&サイン会を開催します。3月11日(水)19時~、紀伊國屋書店新宿本店にて。入場料700円。
※週刊ポスト2015年3月13日号