そうしたメルケル氏の発言について、安倍政権からは反発の声があがった。岸田文雄・外相は「日本とドイツでは先の大戦中に何が起こったか、どういう状況下で戦後処理に取り組んだか、どの国が隣国なのかといった経緯が異なり、両国を単純に比較することは適当ではない」と不快感を露わにした。
大メディアも産経新聞が、「戦前・戦中の日本と独裁者、ヒトラー総統率いるナチス・ドイツとの混同とも受け取れ、問題といえる」と論評し、「欧州各国は韓国のロビー活動に相当影響されている」という外務省幹部の指摘を報じた。
しかし、メルケル氏は“左派”でも、贖罪主義者でもない。党首を務めるドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)は伝統的価値観を重視し、政治的には左翼政党との連立を拒否している中道右派政党である。
その一方でドイツ首相として初めてイスラエル議会で演説し、「ショアー(ヘブライ語で「大きな災難」、ホロコーストの意)はドイツ人にとって最大の恥」と述べた。ロシアのウクライナ侵攻では批判の先頭に立ち、ギリシャ経済危機にあたっては国内で「援助すべきではない」という意見が強まる中、経済支援の必要性を唱えるなど国際秩序の安定に貢献してきた。
メルケル氏が朝日新聞社での講演の中で「独仏の和解はフランスの寛容な振る舞いがなかったら、可能ではなかった」と述べていることからも、タカ派がいうように「中韓ロビーに毒されている」という単純な話ではないだろう。
敗戦国が世界から信頼を得るにはどれだけの外交的努力と実績の積み重ねが必要かを説こうとした“元同盟国”のサインは、もう少し真剣に聞いてもいいのではないか。
※週刊ポスト2015年3月27日号