芸能

織本順吉 悪代官からいじめられっ子の父になった出来事語る

 ヤクザ映画に親分役でよく出演していた俳優の織本順吉(88)は、テレビ時代劇でも悪代官などの悪役をよく演じていた。なぜ悪役に向くようになったのか、悪役の決まりきった芝居をやらなかったときのことについて語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。

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 織本順吉は1970年代、東映のヤクザ映画に数多く出演している。『仁義なき戦い 完結篇』『新仁義なき戦い 組長の首』『実録外伝 大阪電撃作戦』といった実録映画では、堂々と構えながらも実は内心ではビクついている親分役を演じ、独特のユーモラスな雰囲気を出していた。

「僕は一生懸命に怖いヤクザの親分をやっているわけです。だけど、僕がやると怖くないんですよね。『わしには貫目が足りんのじゃ』というセリフがあったんですが。要は『貫禄がない』ということですね。それを言うと、そこに出ている役者仲間たちがクスクス笑うんです。それでも、深作欣二監督はOKを出してくれました。

 深作さんには『順ちゃん、これやってくれよ』と頼まれることが多かったです。『あいつに頼めば間違いないだろう』という、一種の便利屋的な役目でした。

 親分といっても、弱者みたいな親分ばかりでしたよね。そういう時は逆にやることにしていました。強面のつもりでやると、かえってどこか弱みが出るもんなんです。僕が本気になって強気になると、そういう滑稽さが出るようで。コメディって、そういうところがありますよね。一生懸命にやると、おかしくなる。ですから、意識的に気弱な感じでやったことは、ほとんどないですね。

 作家の別役実さんから、奥さんの楠侑子さんとの二人芝居を頼まれたことがあるんですよ。渋谷のジァン・ジァンという小劇場でね。『なんで僕なんかに声かけたんですか』と別役さんに聞いたら、『俺は「仁義なき戦い」の織本さんを観て、出てもらいたいと思った』と言うんです。嬉しかったですね」

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