1970年代は他に、テレビ時代劇などを中心に悪代官などの悪役も多く演じている。
「僕は若くして頭がハゲてきました。だからといって、髪を植えるわけにはいかない。それなら、太ったら悪役ができるんじゃないかと思って、太りました。ですから、若い時の作品を観ると、自分だと気づかないくらい太っているんです。
それで悪役に向くようになっていきました。悪役というのは、条理に適わないことを無理に人に押しつける役だとおもいます。ですから、押しつけがましい芝居をしていたと思います。
でも、決まった芝居しか、させてもらえないんですよね。いつも悪代官の役で『斬れ、斬れ!』なんていうことをいつまでもやっていても、埒(らち)が明かないと思ったんですよ。だから、ある時、全く悪代官の芝居をやらなかった。憎々しくやらずに、ニコニコしてるんです。普通の人間で、悪役じゃなくなった。
マネージャーに言わないでやったものだから、ビックリされましてね。プロデューサーに呼び出されて『悪代官の役なのに、なんでやらないんだ!』って怒られて、謝罪の一筆を書かされました。それ以来、『あいつはやらないからダメだ』というのが伝わって、悪代官の役は来なくなりました。
そういうことがあったもので、いじめられている女の子のお父さんとか、そういう役に段々と変わっていきました」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)など。本連載に大幅加筆した単行本『役者は一日にしてならず』(小学館刊)が発売中。
※週刊ポスト2015年3月27日号