ビジネス

トヨタ過去最高益も2007年度水準まで回復しない下請けが7割

 安倍晋三・首相の賃上げ要請に呼応して大手企業が次々と過去最高の「ベア」を発表し、大メディアがそれを煽り立てる──それだけ見ているとサラリーマンに「暖かい春」がやってきたように思えるが、実態は全く違う。本誌が中小企業経営者を取材すると、聞こえてきたのは怒りと失望の声ばかりだった。

「トヨタや日産のベースアップのニュースを見ましたが、いったいどこの世界の話なのか。社員には苦労をかけているから給料を上げてあげたいのは山々だが、会社の存続で精一杯でそれどころじゃありませんよ。大手が潤えば中小も潤うなんて幻想だ」

 そう嘆くのは、創業108年の味噌・醤油・つゆ・早池峰(はやちね)霊水の製造販売元、岩手県の佐々長醸造(従業員50人)の佐々木博・社長である。

 同社を苦しめるのは、一部輸出企業のボロ儲けの要因となった円安だ。安倍政権誕生当時、1ドル=84円だった為替は120円台に突入した。佐々木社長が続ける。

「うちは原材料の大豆の6割が外国産です。輸出関連の大企業にとっては追い風となる円安が、マイナス材料にしかなりません。原油高は止まって一安心ですが、原材料の輸送費が下がるところまではまだいっていない。利益は昨年と比べて15%も減った。

 商品を作れば作るほど赤字が膨らむから、本当に虚しくなる。中小企業は体力的に限界が近づいているところが多いんじゃないか」

 大手で好業績とベアが実現している自動車業界でも、下請け企業にはその恩恵は見えない。

 帝国データバンクは昨年8月、トヨタ自動車グループの下請け企業の実態調査結果を発表した。全国約3万社の下請け企業の2007年度と2013年度の売り上げを比較したところ、2007年度の水準を回復していない企業が約7割を占めた。

 トヨタが「過去最高」の営業利益を叩き出す中で、下請けの過半はリーマン・ショック前の水準にさえ回復していないのだ。それでは賃上げどころではない。

 金型・プラスチック成形を専門とする東京・大田区の一英化学(従業員14人)は自動車部品の製造も行なっているが、西村英雄・社長は「うちの工場じゃあ、給料を上げるなんて夢のまた夢」と語った。

「ニュースを見ると本当に腹が立ちます。電気代と材料費の値上げに加え、元請けからのコストダウン圧力に挟まれて、我々には逃げ場がない。仕事はあるけど、いつも大手の指し値で、見積もりも出せないのが実情です。今月も忙しかったけど、パートの賃金と電気代を払ったら赤字になった。

 大手の利益は中小がコストダウンを強いられた結果です。自動車部品に限らず、町工場はこれまでさんざん単価を叩かれてきた。にもかかわらず、利益が出るようになってもそれは還元されない。大手はもともと給料がいいんだから、本当に困っている下請けに利益を還元させないと、中小企業は潰れるしかない」

※週刊ポスト2015年4月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

独走でチームを優勝へと導いた阪神・藤川球児監督(時事通信フォト)
《いきなり名将》阪神・藤川球児監督の原点をたどる ベンチで平然としているのは「喜怒哀楽を出すな」という高知商時代の教えの影響か
週刊ポスト
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
NEWSポストセブン
LUNA SEA・真矢
と元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《80歳になる金婚式までがんばってほしい》脳腫瘍公表のLUNA SEA・真矢へ愛妻・元モー娘。石黒彩の願い「妻へのプレゼントにウェディングドレスで銀婚式」
NEWSポストセブン
昨年10月の総裁選で石破首相と一騎打ちとなった高市早苗氏(時事通信フォト)
「高市早苗氏という“最後の切り札”を出すか、小泉進次郎氏で“延命”するか…」フィフィ氏が分析する総裁選の“ウラの争点”【石破茂首相が辞任表明】
NEWSポストセブン
万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
チームには多くの不安材料が
《大谷翔平のポストシーズンに不安材料》ドジャースで深刻な「セットアッパー&クローザー不足」、大谷をクローザーで起用するプランもあるか
週刊ポスト
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
政権の命運を握る存在に(時事通信フォト)
《岸田文雄・前首相の奸計》「加藤の乱」から学んだ倒閣運動 石破降ろしの汚れ役は旧安倍派や麻生派にやらせ、自らはキャスティングボートを握った
週刊ポスト
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン