地元のバス、タクシー事業者が「自分たちのお客がNPOに奪われるから反対」と声を上げれば、実施できない。いわば、事業者に実質的な拒否権が与えられている形である。既得権をもつ業者優遇策のように見える。
弱者の生活支援をどうするかは地域の重要課題だ。そうであれば特定業者に拒否権を認めるのではなく、協議会の意見は参考にとどめて地元の自治体なり議会に最終権限が与えられるべきではないか。
ただし、単純にバス、タクシー業者を悪者扱いにもできない。なぜかといえば、NPOが活躍せざるをえないような過疎地では、とっくにバスやタクシー会社が撤退していたりするからだ。会社があっても、実は客の棲み分けができている場合も多い。
NPOのバスがないなら、安くはないタクシーには乗らず「家にひきこもるだけ」というのが実態なのだ。
さらに「運営協議会自体が設置されていない地域もたくさんある」(NPO関係者)という。そう聞くと「地方のことは地方に」という掛け声だけで問題は解決しないと実感する。業者とNPOの対決という単純図式でもない。
自治体も霞が関ももう一度、疲れきった地域の現実に向き合うべきだ。なにより働いてもらいたいのは、もちろん地元の政治家である。
■文・長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2015年5月1日号