映画史・時代劇研究家の春日太一氏の著書は、武田梨奈の役者生活の大きな指針となったという
春日:彼らスタッフも武田さんと同じ意識というか、やっぱり千葉さんたちが新しいものを作っていって、それが一旦途絶えてしまったところから、自分たちはどうしていくかということをすごく考えていて。かといって、それを体現できる役者がなかなか東京から来てくれないという。
東京から来る役者たちって、アクションに関してはたいてい周りに盛り立てられて初めて輝ける人たちなわけですよね。京都のスタッフからすると、いろんなアイデアを出したいけど受け止めてくれないだろうと思いながらやっていたりするんです。そういうのがどうしてもあるので、「武田さんなら」って皆さんすごく言っていて。
武田:ぜひ! うれしいです。でも私、お恥ずかしいことに時代劇をあまり観てこなかったんですよ。ジャッキー・チェンばっかり観ていたので。アクションの師匠に「これからは時代劇を観なさい」って半年前ぐらいに言われたんですよ。「日本人なんだし、まずこれからはそっちの基礎を学びなさい」って。それから少しずつ勉強しています。
思ったのは、時代劇の動きは空手に似ているなということです。『役者は一日にしてならず』にも「最近の役者たちは腰が落ちていない」と書いてありました。重心の位置ってやっぱり重要なんだなというのは感じましたね。
春日:空手をやられていると、重心というのは意識できている部分でしょうからね。
武田:やっぱり重心ですね。空手でも、時代劇で刀を斬り下ろすのでも、一撃がすごく大切だというか。殺陣の先生には、「戦っている最中よりも、戦う初めと戦う終わりが大切なんだ」って言われました。「それを学ぶには時代劇が一番手本になる」とも。
戦っている最中は相手の方たちも絡んでくれますし、速く動いていればそれなりに派手に見えるじゃないですか。でも「斬り終わった後の姿勢が一番大切だから、アクションスターになりたいんだったら、そういうところを一番見なさい」と言われました。そこから意識が変わりましたね。
春日:『役者は一日にしてならず』の中では松方さんが「静の部分があるから動が引き立つ」とおっしゃっていますけど、まさに、そういうことなんでしょうね。
千葉真一さんがおっしゃっていたのは「動きのない役は動ける役者にしかできない」ということでした。おそらく武田さんのようにアクションのできる役者なら、もっと実感できることなのかなという気がするんです。
武田:例えばブルース・リーさんもそうですけど、何も動かなくても、手のちょっとした力の入れ方とか、やっぱり本物だからこそ伝わるものがあると思うんです。
春日:最近はドラマや映画で普通の女の子の役もやっていますけど、そういうときに、どこかで「ああ、アクションやってきたことが生きている」というのはありますか。