これに安倍首相は色をなし、「格付け会社にしっかりと働きかけることが重要ではないか。グロス(政府の1000兆円以上の債務総額)で見ると確かに大きいのだが、ネット(政府の債務から資産を差し引いた純債務)で見ると他国とあまり変わらないという説明などをしなければならない」と応じたという。
ともにアベノミクスを支えてきた黒田総裁と安倍首相の考え方が完全に乖離(かいり)し、2人の間に大きな亀裂が入ったわけだが、この議論は100%黒田総裁のほうが正しいと思う。格付け会社に働きかけろ、という安倍首相の反論は実に幼稚である。
実際、ムーディーズに続いて今年4月27日にはフィッチ・レーティングスも日本国債の格付けを「Aプラス」から「A」に1段階引き下げた。「A」はイスラエルやマルタと同じで、中国やチリよりも1段階下である。フィッチは、安倍政権が消費税率引き上げ延期を決めておきながら、2015年度予算でそれを補う財政再建策を講じなかったことを理由に挙げている。
いずれにしても、世界は日本国債の保有リスクが確実に高まっていると見ているのである。
私がこれまで何度も警告してきたように、日本国債が暴落したら、それを腹一杯食べてフォアグラ状態になっている日銀が一番危ない。つまり、日本経済を良くするはずのアベノミクスは、年80兆円ペースで国債保有残高を増やす異次元金融緩和という「第1の矢」の足元から崩壊しつつあるのだ。
※週刊ポスト2015年6月5日号