賞賛の意味を込めて「異端のエンジニア」と呼ばれていたある社員が調査したところ、特許をたくさん取っていて役に立ちそうな社員ほど、早期退職に応じていることが明らかになった。その「異端のエンジニア」が率いる研究所は異才、鬼才と評価されるさまざまな才能が集まっていたが、上層部のコントロールが効かず、目先の利益を生み出さないことから、解体の憂き目に遭ってしまった。
〈新しい世の中や画期的な発明、発見はたいてい異端者によってもたらされてきた。日本企業のなかで異端の才能を最も評価していたのは、かつてのソニーであった。その異端者たちがリストラ部屋に収容されるところにその後のソニーの不幸があった〉
ソニーのリストラはまさに自らの特長、長所の切り捨て以外の何物でもなかったのだ。井深氏は会社の設立趣意書で〈自由闊達にして愉快なる理想工場の建設〉を目指すと謳い、盛田氏は社長時代に〈リストラはしない〉と宣言したが、もはやその影すらない。
仮に数字的な業績が回復したとしても、それはソニーと言えるのだろうか。しかも、リストラの進行中、ストリンガー氏は8億円以上の報酬をもらい、現社長の平井一夫氏も報酬を対前年比で1.8倍に伸ばしたことがあった。ソニーの社員でなくとも、怒り、呆れ、嘆きたくなる。
本書の救いとなっているのは、リストラされた社員が実名で登場し、ソニーを退職後、転職や起業によって再起を目指す姿も紹介していることだ。著者も指摘するように、ソニーの遺伝子はもはやソニー社内にはなく、ソニーを飛び出した者たちが受け継いでいるのかもしれない。
※SAPIO2015年7月号