「杉村さんは一緒にやっていて、上手いなと思いました。自然にやるから、リアリティがある。その役にピッタリはまる感じがしたんですよね。
自分としても、自然な演技をすることを心がけてきました。映画でも舞台でも不自然というのがあるからね。でも、自然な方が親しみが持てる。
セリフの言い方でも、いかにもセリフっぽいというか、日常生活ではあんな風には喋らないだろうと思われたらダメなんですよ。できるだけ、普段の人間が喋っている言葉にしないと、観客には理解されないと思う。
たとえば非常に激高している場面も、日常にないわけじゃないでしょう。その日常にある感覚を増幅していって、その役に求められる感情を演じる。それが演技なんです。
たとえば『天井桟敷の人々』という映画で主人公がある女に恋をするけど、女は別の男を好きになってしまう。その時に『ありがとう。これで僕はオセロを演じることができる』というセリフがある。つまり、主人公は嫉妬という感情を経験したということで、そういう気持ちになることが俳優の演技だということをよく示しています。
普通の生活の中にそういう経験はいくらでもある。それを舞台で表現すればいい。ですから、毎日の人生を敏感に一生懸命に生きるってことですよ」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年7月10日号