香港の学生運動指導者で、昨年9月から12月まで2か月半の民主化運動・いわゆる「雨傘革命」を牽引した黄之鋒氏(18)が6月29日深夜、女性の友人と香港の市街地を歩いているところを何者かに襲われ、2人とも顔面などを殴打されて、負傷した事件があった。
中国系香港紙「文匯報」は事件について、「楊正剛」との署名入り記事を掲載し、黄氏は襲撃を親中派の仕業に見せかけて、民主化運動を盛り上げるための自作自演で「苦肉の策」などと論評。これに対して、民主派陣営から批判の声が上がっている。
黄氏は学生団体「学民思潮(スカラリズム)」のリーダーの1人で、香港中心部の道路などで座りこみデモを実行し、香港トップの行政長官選挙を「真の自由選挙」で行なうよう主張。警察がデモ隊に対して催涙ガス弾を使ったのに対し、雨傘で対抗したことから、運動は「雨傘革命」として報道され、西側社会の称賛を浴びた。
黄氏は雨傘革命のほかにも、2012年、香港政府が愛国主義教育の導入を計画した際も抗議活動を指揮し、大規模な街頭デモを組織した結果、香港政府は計画の撤回に追い込まれるなど、「香港では行政長官よりも有名」とある香港市民は語る。黄氏は顔が知られているだけに、街中を歩けば、誰でも振り返るほどで、それが今回の事件につながったとみられる。
事件そのものは単純で、29日午前1時ごろ、昨年の座りこみデモの拠点の一つ、旺角(モンコック)の街頭で20歳代の男に突然、顔面などを殴打されたというもの。男は女連れで、暴行のあと、すぐに姿を消しており、この間、わずか1分足らずだった。
この事件は「学生運動のスター」である黄氏が被害者だったため、香港中のメディアが大きく報道し、「親中派の仕業か」などとの憶測も呼んだ。
これに対して、30日付の親中国系紙「文匯報」はこれを強く否定する署名記事を掲載し、事件は黄氏の自作自演で苦肉の策と報じた。
その理由として、7月1日が香港返還の18周年記念日であり、毎年7月1日には民主派グループが大規模な反中デモを行なうことから、黄氏は市民の同情を買って、デモ参加者を1人でも多く参加させようとしたと論じた。
さらに、学生の民主化グループ内で、運動の方針をめぐって、黄氏の主張と対立するグループも出ており、そのような反対派のメンバーが黄氏らを襲撃したのでは、とも伝えている。
同紙の書き込み欄には、この記事を支持する意見が多数見られ、香港の親中派グループが動員をかけて、「事件の真犯人は民主派グループの一員」との世論を作り出そうとしているようだ。
これに対して、民主派寄りの香港紙「リンゴ日報」は署名記事を書いたとされる「楊正剛」という人物は文匯報に在籍しないとして、「楊正剛はだれ」と指摘するなど、メディア間での応酬が展開されている。