僕は若い頃から自分の生活の中に着物があったから、時代劇の所作とかには特に苦労しませんでした。自然にやればいいんですよ。お茶を飲むにしたって、特別な決まりがあるわけじゃないし、人間の生活なんだから。やりすぎはよくない。刀を腰にさせば、自然とそういう動きになるものです。

 だけど、腰の構えがあるかないかということは大事ですね。刀を構えても、腰が落ちないと刀は振れないから。

 ただ、テレビの時代劇の場合は捕まえる方にはドラマがないんですよね。結局は悪い者を捕まえたり斬ったりするだけの話だから、やりがいはないから演じていても面白くない。

 そういう時は、とにかく台本を読み込むしかない。何かが見つかるんじゃなくて、何としてでも見つけるんですよ。

 俳優にとって大事なのは、台本を何度も読んで理解することです。そうやって、この作品の中で自分はどういうことが要求されているのかを感じないと。

 ですから、その人間を理解するというか、感情が自分のものになるかどうかということが役の成否にかかわってくると思います。俳優の魅力は自分の人生以外にほかの人間になるということだからね」

■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2015年7月17・24日号

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