ライフ

高校野球取材歴20年記者「夏の甲子園開幕前に読みたい3冊」

 夏の甲子園が8月6日に幕を上げる。今年は高校野球の全国大会が開かれて100年、節目の年でもある。そこで夏をもっと楽しむための3冊の本を、高校野球取材歴20年を越えるフリー・ライターの神田憲行氏が紹介する。

 * * *
 甲子園の熱心な観戦ファンは、毎年出場校が出そろうとNHKのホームページにアクセスする。アナウンサー・小野塚康之氏の中継担当試合を確認するためである。チームや選手についての豊富な情報、朗らかで明るい口、そしてなによりも高校野球、選手への愛情が節々ににじみ出る中継をファンは心待ちにしている。

 いやファンだけでなく、同じく甲子園で取材をしている記者の中にも小野塚ファンは多い。私もその一人だ。丁寧な質問、真摯な姿勢に学ぶところが多いからだ。

 前書きが長くなったが、その小野塚さんの新刊が『甲子園「観戦力」をツーレツに高める本』(中公新書ラクレ)である。もう、カタカナの「ツーレツ」を見ただけで小野塚さんの「ツーレツな打球!」という声が脳内再生されてしまう。

 本書ではやはりアナウンサーならではの視点、気づきが面白い。たとえば投球を描写するとき、「ピッチャー第1球を投げました」の「た」を投手の指先からボールが離れる瞬間に合わせるという。このあと打者が打てば打球音、見送れば捕手のミットが音を響き、中継は「打ちました」「アウトコース直球ストライク」というリズムになる。

 ところが横浜高校時代の松坂大輔投手の場合、「投げました」の「た」のあとの間が取りにくかったという。

〈「間」が短い、ということは、スピードがあり終速が落ちない証しなのだ〉

 そういうとき、場合によっては「投げました」ではなく「投げた」と短い描写に切り替える。ということはアナウンサーが描写を変えたとき、その投手の球が伸びているということである。今夏の野球中継を聞く楽しみがひとつ増えた。

 選手の想い出話のなかで、我が意を大いに得たりと私が思わず膝をうったのが、91回大会で優勝した中京大中京の8番ライトの金山篤未選手を取り上げたところだった。あのチームは広島カープに入団したエース堂林翔太、安打製造器の河合完治選手などが注目を集めていたが、私も「なにげに金山ってすごくないか」「他のチームにいたら普通に3番センターだろ」などと思い、本人に取材していたのだ。

 同じ思いを小野塚さんと共有できていたことがわかって嬉しい。いやこれは金山が凄いのか。とにかくそんな選手がずっと8番ライトの「ライパチ」なのだから、そりゃ、あのチームも強かったわけである。

 野球中継の見所・聞き所が増え、選手話にそうそうと頷いてしまう、楽しい本である。

 ちょっと前に出て売れ行き絶好調と聞くのが、『小倉ノート 甲子園の名参謀が明かす「トップチーム」の創り方』(竹書房)だ。

 著者の小倉清一郎さんは、元横浜高校野球部部長で、松坂大輔投手や涌井秀章投手などを育てた「名伯楽」として知られている。私は98年に出した「ドキュメント 横浜vs.PL学園」で取材させていただいて以来、折に触れて高度な野球理論について話を伺っている。この本は小倉さんの集大成ともいうべき内容だろう。

 内容は選手のスカウティングの基準から練習方法まで多岐に渡るが、この夏、高校野球をより楽しむ視点として有効なのが、まず、

〈(対戦相手の打者の)打席に入る前の素振りを見る〉

 だろう。理由は、

〈だいたい自分の好きなポイントを狙って振って、嫌いなところは振らないから〉

 内角のストレートをイメージしているのか、外角の変化球をイメージしているのか。素人が素振りでどこまでわかるかわからないが、目を凝らして見てみたい。

 試合前のシートノックでは相手キャッチャーの肩を見る。

〈「見せ肩」なのか「本物の肩」なのか〉

 シートノックの終わりなどに、捕手が盗塁を想定して二塁に送球する。そのとき1、2歩、無駄なステップを踏んでいるとき、それは「見せ肩」だという。良い送球しているようにみえて、無駄なステップを踏んでいる分だけ本番の試合では間に合わない、見せかけの肩だという意味だ。

 さらに守備力を測る目安が「偽投サード」。ランナー二塁のときに、三塁ゴロでサードが一塁に投げるふりをして、ショートが三塁に入り、二塁から走ってきたランナーをタッチアウトにするプレーである。このとき投手はわざわざ三塁ベースカバーに入ろうとする仕草だけする。すると二塁走者は三塁ベースががら空きになっていると勘違いする、というわけである。

関連キーワード

トピックス

元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカル
【ニコラス・ケイジと共演も】「目標は二階堂ふみ、沢尻エリカ」グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカルの「すべてをさらけ出す覚悟」
週刊ポスト
阪神・藤川球児監督と、ヘッドコーチに就任した和田豊・元監督(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督 和田豊・元監督が「18歳年上のヘッドコーチ」就任の思惑と不安 几帳面さ、忠実さに評価の声も「何かあった時に責任を取る身代わりでは」の指摘も
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン