ライフ

日本人の食文化「口中調味」は複雑な味わいを生む高等技術だ

「一汁三菜」、海外に広がる

 日本の「味」が海外で広がるなか、日本の「食べ方」も広がるのだろうか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が語る。

 * * *
 寿司やラーメンなど「日本食」が海外進出するなか、完全に世界的な認知を得た神戸ビーフやフレンチで大ブームとなった柚子の味わいなど、さまざまな形で日本の”味”は世界に進出している。箸を使う外国人の姿も珍しくなくなった。もっとも「食べ方」の海外進出はまだ道半ばだ。

 日本人の特徴的な食べ方に、「口中調味」がある。味つけのない白いごはんを、口のなかで咀しゃくしながら他のおかずで味つけをする。ごはんとおかずを交互に食べる、いわゆる「三角食べ」のようなスタイルだ。いっぽう、欧米ではフレンチのコース料理に象徴されるように、ひとつひとつの皿を平らげながら食事は進んでいく。食に造詣の深いエッセイスト、玉村豊男氏は著書でこう書いている。

「口のなかに入れた食物の咀嚼を途中で止めたまま、口を半開きにしておいてそのまま次の食物や液体を放り込むのは、けっこう微妙な運動神経を必要とする作業です。(中略)そもそも彼らにはそんな高等な技術を要する芸当はやれと言われてもできないのです。欧米人は、ほぼ例外なく、できないと断言してよいでしょう」(集英社新書『食卓は学校である』より)

 口中調味は味への受容を広くすると言われる。完成された品を一皿ずつ食べるより、さまざまな複雑な味わいを生むとされているからだ。もっとも近年、日本人でも何かひとつのものを食べ続ける「ばっかり食べ」が増え、口中調味力が落ちているとも言われている。

 2007年、福井大学の研究チームによって「食事時における白飯、おかずの食べ方と偏食の関連性」という地域の小中学生、782人を対象とした調査が行われた。その結果、全体の73.7%が口中調味を「よくある」(39.6%)、「ときどきある」(34.1%)と回答した。

 つまり「日本人に特徴的な食べ方」ができない子供が4人に1人いることになる。実際、5年ごとに行われる「児童生徒の食事状況等調査報告書」にも、2005年から「児童生徒が食事中に気をつけていること」の項目として「ごはんとおかずをかわるがわる食べる」が新たに加えられた。つまり調査側も「かわるがわる食べない」という子供がいることを念頭に置いているのだ。

 では海外はどうか。これまで海外で人気を博していたのは、ラーメンや寿司、牛丼といった外国人にとっても食べやすい日本食が中心だった。しかし「ごはん+おかず」のようなスタンダードな日本食を提供する「やよい軒」「さぼてん」「大戸屋」といった和食チェーンが海外進出。いずれも100店前後の出店を果たし、日本食文化の海外展開に一役買っている。

関連記事

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン