国際情報

佐藤栄作逮捕を「幻」にした政権と特捜部で交わされた密約

“日本の最強権力”検察は、過去数多の政治家を摘発してきた。だが、彼らの振りかざす“正義”にも裏があった。政府と検察の間で交わされた、最初で最後の「法務大臣の指揮権発動」の密約について、ジャーナリストの青木理氏がレポートする。

 * * *
 1954年初頭、検察の精鋭捜査部隊である東京地検特捜部は沸き立っていた。造船会社などから有力政治家に賄賂が流れたとされる造船疑獄の捜査が進展し、特捜部は当時の与党・自由党の議員らを続々逮捕する。捜査はさらに政界中枢へと伸び、最高検察庁は同年4月20日、自由党幹事長・佐藤栄作の逮捕許諾請求まで決めた。
 
 しかし翌21日、吉田茂政権の法相・犬養健は検事総長に対し、国会で重要法案審議中であることを理由として検察庁法に基づく指揮権を発動、逮捕請求を延期させ佐藤逮捕は頓挫した。法相の指揮権(※注)発動は初であり、以後も例がない。汚濁した政界に向けて振り上げられた検察の正義の刃が不当な指揮権で折られ、検事たちは悲嘆にくれたこれが巷間伝えられてきた“正史”である。
 
※注:指揮権/検察庁法により、公訴や捜査などの検察事務に関し、法務大臣は検察官を一般に指揮監督できると定めつつ、個々の取り調べや処分については検事総長のみを指揮できる、と制限している。これを法務大臣の「指揮権」と呼ぶ。

 だが近年、この正史は歪められたものだ、との見方が出ている。どういうことか。

 特捜部は当時、イケイケで突っ走ったものの、実は穴だらけの粗雑な捜査であり、佐藤逮捕に踏み切っても公判維持すら難しかった。そこで当時の検察幹部が政権側に接近し、指揮権発動を誘発して捜査中断を演出した。にわかには信じ難いかもしれないが、これを裏づける有力な傍証はいくつもある。

 代表的なのは吉田政権の副総理・緒方竹虎の日記だ。親族が管理する日記はいまも非公開だが、緒方の伝記を執筆した作家らによって一部紹介されている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
大谷翔平がこだわる回転効率とは何か(時事通信フォト)
《メジャー自己最速164キロ記録》大谷翔平が重視する“回転効率”とは何か? 今永昇太や佐々木朗希とも違う“打ちにくい球”の正体 肩やヒジへの負担を懸念する声も
週刊ポスト
『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)を執筆した作家・樋口毅宏氏
「元部下として本にした。それ自体が罪滅ぼしなんです」…雑誌『BUBKA』を生み出した男の「モラハラ・セクハラ」まみれの“負の爪痕”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト