西日本のとある私立高校は、高校野球ファンなら誰もが知っている甲子園常連校。飯田美佳さん(仮名、40代)の次男で高校1年生の大介くん(仮名)は、その強豪野球部の一員だ。
大介くんは小学1年生のとき、地元の野球チームに入っていた2つ上の兄に憧れて、バットを握るようになった。運動神経抜群の大介くんはあっという間に上達して、地元ではちょっとした有名選手になった。中学生になると学校の野球部ではなく、県内のボーイズリーグの名門チームに所属。
「練習や試合は土日にもあります。うちの息子のチームは練習グラウンドが他県にありました。毎回、お弁当を作らなければいけないから、冬は日の出前に起きていました。大変なのは隔週で回ってくる当番です。車で1時間かけてグラウンドに行き、一日中一緒にいました。寒い時期は炊き出しとして、温かい味噌汁を作って選手やスタッフひとりひとりに手渡します。監督やコーチへの弁当や飲み物の提供も当番の仕事でした」
当番の交通費や飲食代は、年間16万8000円の部費から賄われたが、自腹を切ることもあったという。
そして美佳さんの懸命なバックアップもあって、大介くんは昨年4月、名門高校の野球部に入部。家から通える距離にもかかわらず寮に入ることになった。
「野球に集中できるという理由で主力選手は全員寮生活です。そもそも朝練の始まる時間が始発に乗っても間に合わないほど早いんです」
部費は年間2万円となり、ボーイズリーグに比べて下がったが、諸経費がかかって仕方がない。
保護者会費2万4000円、それにバットやグローブ、スパイク代など消耗品代を合わせると年間24万円、寮費を加えると、年間72万円もかかる。その上、私立だから学費も高い。
「それでもグローブを変えればもっとボールを捕れるのかなとか考えると、つい、買ってしまいます。夫の給料だけではやっていけないから私も契約社員として働いています」
今夏、懸命にわが子を支え続ける美佳さんと大介くんに“事件”が起こった。3年生が引退して新チームになると、大介くんは退寮を命じられた。つまり、主力メンバーからの“戦力外通告”を受けたのだ。大介くんは自宅から通うようになって、家ではふさぎ込むことが多くなった。
「息子はしばらく家で『野球の話をするな』と言っていました。何かフォローしたいんですが、息子が拒絶していたので、そばで見守るしかできません…。母親の私も落ち込んじゃって…。8月末になってようやく徐々に話せるようになってきました。このまま元気になって野球に打ち込めば、また寮に戻れるかもしれない。毎日ハラハラドキドキです」
美佳さんは、来年の甲子園で活躍する大介くんに、声援を送る日を夢見ている。
※女性セブン2015年9月17日号