スポーツ

プロ最年長・73歳のオートレーサー「75歳まで頑張りたい」

プロスポーツ界最年長・73歳で現役の谷口武彦選手

 直線を時速150kmで駆け抜け、120kgの車体をぎりぎりまで傾けてコーナーに突っ込む──。そんなスリリングなオートレースの世界で73歳の「おじいちゃん」が現役を続けている。1941年生まれの谷口武彦選手である。

 日本のプロスポーツ界の中で現役最年長で、公営競技最年長勝利記録を持つ。今年8月19日のレースでも勝利し、自らが持つ記録を7月に続きまたまた更新した。

 谷口がこの世界に飛び込んだのは1966年、24歳のとき。「バイクのふるさと」浜松で生まれ育って子供の頃からバイクが大好き。11歳年上の兄が先にオートレーサーになり、憧れが募った。それ以来、今年でちょうどキャリア50年目。現役でいられる秘訣を聞くと、

「一流選手はプライドが高く、結果が出なくなると引退する。でも、私はプライドがないからいつまでもぶら下がっていられる(笑い)」

 実際、谷口は大きなレースで勝ったことはほとんどなく、ランキングは下位。だが、「プライドがないから」は謙遜だろう。

 谷口には30年間続けていることがある。ひとつは出場レースの仔細な記録。試走タイム、レースタイム、レース結果に始まり、天候やマシンのチューニング方法などをノートに付け、スランプに陥った時などに条件の似た過去のレースを振り返り、参考にする。

 もうひとつはレースがない日に2時間かけて行なうウエイトトレーニング。谷口は身長158cmと小柄だが、胸囲は73歳の今でも1m以上ある。3年前、レース中に転倒して後続車が背中に乗り上げたが、鍛え上げた身体は無傷だった。

 現在は浜松市内の一軒家に一人住まいしている。44年余り連れ添った妻は昨年3月に他界。夫人の病気が発覚したとき、谷口は選手生命の最大の危機を迎えた。

「引退して看病に専念しようかと思ったんですが、『看病にのめり込んだら生活が乱れ、身体を壊す』と姉に説得され、レースを続けました。死に目には会えませんでしたが、もしあの時引退して自分で看取っていたら悲しすぎて首を吊ったかもしれません」

 このときばかりは声が潤んだように聞こえたが、すぐに明るい声でこう続けた。

「女房もあの世できっと『ボケ防止のためにもう少し続けなさいよ』といってくれているんじゃないですか。レースの緊張感が好きなんです。まだまだ75歳までは頑張りたいです」

◆谷口武彦(たにぐち・たけひこ):1941年11月28日生まれ。静岡県浜松市出身。浜松オート所属の最年長レーサーで、公営競技最年長勝利記録保持者。通算勝利数626回(8月27日現在)。

撮影■渡辺利博 取材・文■鈴木洋史

※週刊ポスト2015年9月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン