◆上海リニアの地下は地盤沈下している
さらに深刻なのが社員のモラルだ。前述のドイツの事故は、無人の遠隔操作によって運転中のリニアが前方走行中の作業車に時速200kmで衝突した。車両故障ではなく通信系統にトラブルがあったと報じられている。
機械制御には誤作動が想定される。人的な監視も求められるが、写真に映る女性に、トラブルを収束する技術を求められそうもない。それは鉄道に限った話ではなく、〝上意下達〟の中国社会では無理もない。
権力と情報は限られた共産党幹部にしか集まらず、末端の人間は何も知らず、そのツケだけを払わされる。このたびの天津大爆発で救助に駆けつけた消防隊が化学物質に放水し、更なる爆発を招いたのが分かりやすい例だろう。
ちなみに上海リニアは、日本(JR東海)で開発が進むリニアとは違う方式を採用する。
最大の違いは浮力にある。
「上海リニアの場合は、軌道と車両の間が1cm。一方の日本は10cm。これは日本の地理的な条件が考慮されている。多少の揺れや地盤の歪みが起こっても、地面との間隔に余裕があれば、安定して走行することができます」(川島氏)
逆にいえば、上海リニアは地殻変動に弱い。長江の下流域に位置する上海は地盤が軟らかく、地盤沈下の影響も受けやすい。時を経れば経るほど、慎重な運用が求められる。
最高時速430kmを掲げた上海リニアが、小誌取材時には300km程度に留まったのも、運行に不安を抱えているからに思える。
他国にインフラを輸出するとなれば、「技術」とともに「安心」を提供する義務がある。日本がリニア開発を入念に行っているのも、命を預かる鉄道運行に、「万が一」があってはならないからだ。
上海リニアに何が起こってもおかしくない。果たして中国指導部は、その軋みの音に気付いているだろうか。
※SAPIO2015年10月号