◆高速鉄道は中国の対外インフラ輸出の目玉商品
実質的な運転は、彼女が行っているわけではない。遠隔操作の自動運転である。ただし、不慮のトラブルが起きた場合、監視役としての役割が問われるが、スマホ閲覧中の彼女にはとても期待できない。これが中国政府ご自慢の上海リニアの運行実態である。
同線は2004年、世界初の営業用リニアとして開通した。技術はドイツから輸入し、最高時速は約430kmに達する。
上海の“空の玄関口”浦東国際空港のターミナルビルから、約30km先の地下鉄駅を結ぶ。総工費は、およそ89億元(当時1335億円) だという。
10分弱しかない運行時間を考えると乗車料金50元(約1000円)が高いか安いかは判定しづらい。が、これは採算性を度外視した中国の技術力を世界にアピールするための国家プロジェクトなのである。
「中国鉄道史上の大事件だ」
列車を試乗した朱鎔基首相(当時)はこう高らかに謳い上げ、その先進性を国内外にアピールした。リニアや新幹線に代表される高速鉄道は、中国の対外インフラ輸出の目玉商品なのである。
中国の高速鉄道の総延長距離は、既に日本の新幹線の5倍以上の距離を誇る。中国国内では主要路線が飽和しつつある。鉄鋼生産や車両製造を超過させないためにも、対外輸出を迫られている。
その国家戦略は昨今、さらに顕著になりつつある。習近平国家主席や李克強首相は、アフリカや東南アジアなどを訪問するたびに、高速鉄道輸出の商談を行っている。
そうしたトップセールスは、AIIB創設(*注)の動きと相俟って、インフラ輸出を成長戦略の一つに掲げる日本をも凌駕しつつある。
【*注/AIIB(アジアインフラ銀行)は、2015年末の業務開始を予定。発展途上国に対するインフラ輸出で主導権を取りたい中国の思惑が指摘されている】
だが、中国はそうした「インフラ輸出国」に足る国なのかどうか。今回の写真は、車両メンテナンスの不備をはっきりと物語っていた。鉄道評論家の川島令三氏はこう分析する。
「上海リニアは、ドイツのトランスラピッド社から技術を提供され、開発されました。このころ、ドイツは官民あげてリニア事業の実用化を進めており、各国への技術提供も申し出ていました。しかし、当のドイツでは実用化前の2006年、実験線で事故が起こり、23人が死亡してしまう。
さらにまた、リニアでは一般鉄道への乗り入れができません。EUでは国家を跨いだ往来が当たり前になるなか、需要が高まることはありませんでした。そして2011年、ドイツでの開発が終了した。結局、実用化を果たしたのは中国だけ。部品調達などの面でコストが上がり、メンテナンスにも影響が出ているのではないでしょうか」