「やっちゃえ」が社会全体へのメッセージだとしたら、顧客としてはどの層をターゲットにしているのだろうか。
「車好きの多い、いわゆるバブル世代の50代。そして退職金が入ってお金に余裕のある60代。この年齢層が主要ターゲットだと思います。でも若い世代にも、矢沢さんが好きだという人が増えているんです。2010年には東京大学の学園祭でサプライズ・ライブを行い、昨年は『東京ガールズコレクション』に登場して若い女子たちを熱狂させています。
70年代からのファンの中には自分の子供、そして孫と一緒にコンサートに来ている人もいます。世代を超えてファン層が広がっているということも、日産に限らず企業が起用したがる理由の一つだといえます」(牛窪さん)
30代以上の人たちは、「やっちゃえ」CMのカメラワークで、同じ日産の古いCMを思い出した人もいたのではないだろうか。井上陽水(67)が「皆さん、お元気ですか」と語りかけるセフィーロのCMだ。CMで使われた「くうねるあそぶ」という言葉は流行語にもなった。
「井上陽水さんのCMは、大人の楽しみを前面に押し出したものでした。矢沢さんのCMは、上の世代にも下の世代にもハマるように作られています。成りあがることの難しい時代を生きている若者たちの目には、『失敗や挫折ばかりしているけど俺は性懲りもなくやっているよ』という矢沢さんの姿が新鮮に映っていることでしょう」(牛窪さん)
CMは最後、「“やっちゃえ”NISSAN」という言葉で締めくくられるが、そこには今の日本の若者に対する矢沢のメッセージを詰め込んでいるのかもしれない。