では説明責任を求められた武藤氏はなにをしたか。会見を開き、「私自身の説明責任を果たしていきたい」と繰り返した。

 前述した通り、説明するのは当たり前のことで、スタート地点にすぎない。政治家には「自ら役職を辞する」「議員辞職」などいろいろな責任の取り方があるが、「責任を取って説明いたします」ということは責任を果たしたことにはならない。

「説明責任」の一語のおかげで、それがすべて曖昧になってしまっている。「責任をはぐらかす」ために使われているのだ。メディアも印籠のように「説明責任を果たせ」と叫ぶことで、かえって責任転嫁、責任放棄しやすい環境を整えてしまっている。

 結局、党も本人もけじめをつけず、このまま武藤氏は解散まで国民の税金でのうのうと暮らしていくのではないか。東京五輪のエンブレム問題もそうだ。佐野研二郎氏の「説明責任」は当然だが、本来は選んだ審査委員会の「責任」が問われてしかるべきではないか。

 私の記憶の範囲で言えば、「説明責任」が声高に言われ出したのは小泉政権の頃からだったと思う。弱肉強食の新自由主義路線へと舵が切られ、個人主義の風潮が跋扈した結果、組織としての責任が軽視されていった。その結果、「本人が説明さえすれば一丁上がり」という状況が生まれてしまった。

 よく考えていただきたい。「説明責任」は「無責任」を生むという皮肉な結果になっているのである。

写真■共同通信社

※SAPIO2015年11月号

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