『愛のコリーダ』には崔洋一が助監督として参加、藤は崔の初監督作品となった日本テレビのドラマ『プロハンター』(1975年)に主演している等、縁は深い。
「上手くいかない時に大島監督が怒鳴るのは、いつも崔さんでした。役者のように自分と異なるセクションには何も言わない。
崔さんは僕の主演ドラマにチーフでついていた流れで監督デビューをしています。それから何年かして、僕のところに電話がかかってきたことがあります。
『ある監督に助監督をやってくれというオファーがあって迷っている』と。崔さんも監督として仕事のあった時期ではなかったので、また助監督として生活したいということでした。僕は『監督というのは金看板なんだから、おろしちゃまずいんじゃないか。今は苦しいかもしれないけど、我慢した方がいい』というようなことを言いました。
監督は一種の神様です。そうしないと、映画の現場って回らない。監督を好きになることも、そこの組に参加している人間の仕事の一つだと思っています。
オファーが来るとその監督の作品を集めて見ることにしています。それで『この人の世界は分からない』と思ったり、ホンを読んで役がつまらなかったら断ります。女性と同じです。上手くいきそうなタイプ、ダメそうなタイプがあるんですよ」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年11月6日号