◆夏合宿をボイコット
就任早々、渡辺監督は豊川高校時代の教え子であるキャプテン・奥野翔弥選手(4年)を中心としたチーム作りに着手した。
「夏には1か月半の長期合宿を行なったり、2013年の優勝の原動力と言われたトレーニング法『BCT(ベース・コントロール・トレーニング)』を廃止したりと、渡辺監督は独自色を打ち出した」(同前)
別府前監督は選手の自主性を重んじ、選手とコミュニケーションを取りながらチームの結束を図るタイプだが、渡辺監督は真逆だ。
「渡辺監督は挨拶の作法から洗濯物のたたみ方まで口を出す管理型。実績のある選手にフォーム改造を求めることもあります。そして自分の指導法を受け入れる選手を重用するようになったそうです。そうした指導法に山中選手は納得がいかなかったみたいですね。昨シーズンをケガで棒に振った彼は今年5月の関東インカレ10000mで優勝を飾るなど、復調をアピールしていたからなおさらです」(同前)
深まる監督とエースの溝。そして数か月後に決裂は避けられない事態となった。
「反発を始めた山中選手が夏合宿をボイコットし、それを見た渡辺監督は彼をレギュラーから外した。これが原因で山中選手は、チームを飛び出したんです。チームメートが彼を諫めたんですが、抑えきれなかった」(同前)
事態は山中選手の退部だけでは収まらず、主力選手やコーチも後を追うようにチームを去った。確執について日体大広報に話を聞いた。
「山中選手の退部については本人が決めたことなので、お話しすることはありません。監督との確執もないと考えています。とにかく今のチーム力を最大限活かして戦うだけです」
一方で主力選手を失いながらも予選会を突破した渡辺監督の評価は高まった。
「豊川工での実績から注目される指導者であることは間違いない。体罰問題で辞めた後も、渡辺監督を追って豊川工の選手が大量転校するなど、彼を慕う選手は少なくない」(前出・酒井氏)
※週刊ポスト2015年11月13日号