北海道で老人ホームを経営する51才のB美さんは、川崎の事件で複雑な気持ちになった。
「公開された映像を見る限り、許される行為でないとは思います。ただ、老人ホームにいるかたや、介護を受けるかたが、みなさんいい人ではない。職員に大声で反抗したり、殴ろうとしてきたり、セクハラ行為をする人もいます。暇だからと呼び出しブザーを鳴らして、何分で職員がくるか確かめるとか、1分おきにブザーで呼び出して、職員が部屋に行くと知らん顔なんてことは、日常茶飯事です」
背景には、近年、連れ合いに先立たれた、子供夫婦が同居を解消してきた、などの理由で、身体的な不自由があまりない、“元気な高齢者”の入居が増えていることもある。
意思ははっきりしていて、体力もまだまだ充分。そんな入居者たちは、河合さんの前述通り、職員に対して“人生の先輩だ”という意識を持つ人も少なくない。
また、家族から独り離れ、“見放された”“集団生活で自由が奪われた”などと孤独や喪失感を抱き、そうした負の感情が職員に向かうこともある。
「ご家族のなかには、ご両親を入居させたきり、一度も面会に来ないかたもいます。様子を見に来る人でも、職員をまるでお手伝いさんのようにあごで使う人もいる。物がなくなったときに職員を泥棒扱いしておきながら、部屋でそれが見つかっても、お詫びの言葉ひとつもありません」(B美さん)
そう、入居者の家族もまた、職員を追い詰める存在になりかねないのだ。
「昔は、元気な入居者がいれば配膳を手伝ってもらったりして、役割があることを本人も喜んでいたのですが、今そんなことをお願いしたら、“お金を払っているのに働かせるなんて!”と家族からクレームがきます。ドライヤーやはさみでちょっとした傷ができてしまっただけで、“虐待だ!”と通報される可能性があるので、職員たちは自衛のためにすべてを管理し、入居者の行動を制限しています。それが入居者にとっては新たなストレスになり、悪循環に陥っているのです」(河合さん)
前出・A子さんは、早朝勤務や夜勤など、不規則なサイクルで働きながら、ふと考えることがある。
「あのときしたことは、ひどいことだったのかもしれない、と自己嫌悪に陥ったり、虐待で訴えられるかもしれない、と不安になったり、自分がしていることが正しいのか間違っているのかわからなくなってしまうんです」
※女性セブン2015年11月19日号