国際情報

「日本人スパイ」逮捕 反日と妥協を強いる外交にも使用可能

 中国内で今年5月から6月にかけて、日本人男女合わせて4人がスパイ容疑で逮捕される事件が発生した。習近平指導部が日本政府に対して「スパイ釈放」を条件に尖閣諸島問題に関する交渉のテーブルにつくよう要求したとの事実をつかんだジャーナリストの相馬勝氏が、今回の逮捕劇の狙いを解説する。

 * * *
 中国では習近平指導部発足後、中国の共産党一党独裁体制を覆そうとする外国勢力の侵入や西側の思想の浸透を神経質なまでに警戒している。いわゆる「和平演変」(平和的な体制転覆)である。習近平指導部は西側の民主化や政治思想に強い影響を受けている中国内の非政府機関(NGO)や人権弁護士らの活動に目を光らせる一方で、外国人の活動にも神経を尖らせている。

 日本人2人の逮捕前に、米国の女性とカナダ国籍夫婦の計3人が逮捕されていることからも、そのことが分かる。この法的根拠が昨年11月に施行された「中華人民共和国反スパイ法」である。しかし、北京の外交筋は「日本人逮捕の場合は極めて政治的、外交的な意味合いが含まれている」と分析している。

 なぜならば、この4人が身柄拘束された5月と6月というのは、日中戦争が勃発した1937年7月7日の盧溝橋事件78周年に近く、中国内では反日機運が高まっていた時期と重なっているからだ。今年の7月7日は盧溝橋近くの抗日戦争記念館で、大々的に日中戦争の展示会が開催され、習氏ら党最高幹部が勢ぞろいした。

 また、2人の逮捕が発表された9月には、北京で抗日戦争勝利70周年の軍事パレードが行われており、今回の逮捕劇はまるで日本人を狙い撃ちしているようにも受け取れる。そもそも中国では国家機密の定義があいまいで、中国側の考え次第でいかようにも外国人を逮捕することができる。

 筆者は40年ほど中国をウオッチしてきたが、中国では立ち入り禁止区域がどこで、国家機密は何なのかが非常に分かりにくい。また、香港で流れた情報なども、中国内部では国家機密に当たることもある。それは筆者のニュースソースの日本人男性が国外追放になったことからも分かる。

 今回の逮捕劇は時期的にみても、国内の求心力を高める「反日カード」にも、さらに日本に妥協を強いる「外交カード」としても使えるのだ。

※SAPIO2015年12月号

関連キーワード

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン