国内

高級腕時計は時代遅れか 「趣味で持つものになる」との指摘

高級腕時計はもはや時代遅れか(Ph:Thinkstock/Getty Images)

 オメガ、ロレックス、ブルガリ、カルティエ…。ひと昔前までは、若手サラリーマンでもそんな高級ブランドの腕時計を持っていることが珍しくなかった。それどころか、「もっと上のランクの腕時計をつけたい!」という人がゴロゴロいて、それが働くモチベーションにもなっていた。しかし最近の若者たちから、「自分も高級腕時計が欲しい」という声はあまり聞かれない。携帯電話の登場によって、腕時計をつけない人が増えたとはいえ、“デキる大人”の象徴でもあった高級腕時計への憧れさえもなくなってしまったのだろうか。

『恋愛しない若者たち ~コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー21)を上梓したばかりのマーケティングライターの牛窪恵さんは、ライフスタイルの多様化により恋愛や結婚の価値が低下または変質したと同書で指摘するが、高級腕時計を欲しがる人が減ったのも同じ理由からだという。

「90年代半ば、渋谷の109前で定点観測をした人の話です。当時100人中約90人の女子が、なんとルイ・ヴィトンのバッグを肩からさげていた、とのこと。いわゆるバンドワゴン効果によって、みんなが持っているのと同じブランド品を欲しがる人が多い時代だったのです。腕時計も当然、よく知られる高級ブランド品が売れていました。この頃はブランド品を持つことや恋人がいることが、ステータスでもありました。

 でも今は、見栄や高額消費がステータスになりにくい時代です。若者たちは、ブランド品も恋人も『あったら(いたら)いいな』とは思うけれども、コストやストレスを考えると無理をしてまで持とうと思わなくなっているのです。

 価値観を変えたのは、経済の減速と飽食の時代です。バブル崩壊後の1990年代後半から2000年代半ば、誰もが稼げる時代ではなくなり、ブランド神話の崩壊が起こりました。一方で便利なネット通販が登場し、センスや情報収集力を駆使して、いかに希少価値の高いものを安く手に入れるかが問われるようになった。昔は“安いものはショボい”が通説でしたが、今は安くてもいいものがたくさんある。元々センスもいい今のアラフォー世代以下の人たちは、ブランドにこだわらずに安くてシンプルな服を着こなしたり、周りが持っていないものを欲しがったりするようになりました」

 古着ブームやレア物ブーム、そしてユニクロなどファストファッションブランド隆盛の時代が到来すると、若者たちは高級ブランドとの距離を取り始めた。周りに見栄を張る必要がなくなったのだ。高級腕時計よりも、カシオのG-SHOCKの限定モデルを持っているほうが羨ましがられることもあった。最近ではApple watchなどのスマートウォッチが登場。ウェアラブルデバイスとして時間を確認する以上の機能を持った端末に注目が集まり、腕時計というもの自体が「時代遅れ」ではないかという考え方も出始めている。
 
「今は高いものを身につけても、自慢になりません。それどころか“悪目立ち”してしまいます。例えばSNSで、高級ブランド品を買ったと報告すると、空気が読めない人になってしまう。それよりも、ファストファッションが半額で買えたとか、ガリガリ君のコーンポタージュ味をゲットしたとか、そういう話題のほうがみんなの注目を集められます。

 今後、高級腕時計は、酒やタバコのように”嗜好品”の一つになるでしょう。趣味として高級腕時計を持ちたがる人はいるので、そういう人たちの間では自慢し合えるはず。最近はSNSを通じて、ニッチな趣味を持つ人たちの交流も盛んに行われています。一部の人たちが、どんどんいいものを欲しがって、腕時計の趣味を極めていくようになっていくと思います」(牛窪さん)

 誰もが持つものから、好きな人だけが持つものに。多くの人にとって高級腕時計を持つ意味は薄れてしまったのかもしれないが、多様化社会の進む今だからこそ、高級腕時計は個性を示すアイテムの一つとして、ある意味ランクアップしたのかもしれない。しかしそれは同時に、市場規模が縮小していくことを意味する。

「現時点で、高級腕時計の市場が拡大することは考えにくいところですが、バブル世代を親に持つ子供たちが、親の影響を受けて高級腕時計を欲しがるということはあるかもしれません。高級車は、乗ってみたらその良さが分かります。高級腕時計も、つけてみて『いいな』と思う人が増えれば、再び注目を集めることもあるかもしれませんね」(牛窪さん)

 時代とともに価値観は変わる。10年後、20年後の若者たちは、何を見て時間を確認しているだろうか。

関連記事

トピックス

ラーメン二郎・全45店舗を3周達成した新チトセさん
「友達はもう一緒に並んでくれない…」ラーメン二郎の日本全国45店舗を“3周”した新チトセ氏、批判殺到した“食事は20分以内”張り紙に持論
NEWSポストセブン
モデルのクロエ・アイリングさん(インスタグラムより)
「お前はダークウェブで性奴隷として売られる」クロエ・アイリングさん(28)がBBCで明かした大炎上誘拐事件の“真相”「突然ケタミンを注射され、家具に手錠で繋がれた」
NEWSポストセブン
風営法の“新規定”により逮捕されたホスト・三浦睦容疑者(31)(Instagramより)
《風営法“新規定”でホストが初逮捕》「茨城まで風俗の出稼ぎこい!」自称“1億円プレイヤー”三浦睦容疑者の「オラオラ営業」の実態 知人女性は「体の“品定め”を…」と証言
NEWSポストセブン
永野芽郁
《不倫騒動の田中圭はベガスでポーカー三昧も…》永野芽郁が過ごす4億円マンションでの“おとなしい暮らし”と、知人が吐露した最近の様子「自分を見失っていたのかも」
NEWSポストセブン
万博で
【日本人の3人に1人が栄養不良】大阪・関西万博で語られた解決の決め手とは?《キウイ60億食分を通じて、栄養改革プロジェクト進行中》
NEWSポストセブン
海水浴場などで赤と白の格子模様「津波フラッグ」が掲げられたら避難の合図。大津波警報、津波警報、津波注意報が発表されたことを知らせている(AFP=時事)
《津波警報中に目撃されたキケンな人たち》警戒レベル4の避難指示が出た無人海岸に現れたサーファーたち 「危ない」「戻れ」の住民の声も無視
NEWSポストセブン
中居正広
中居正広FC「中居ヅラ」の返金対応に「予想以上に丁寧」と驚いたファンが嘆いた「それでも残念だったこと」《年会費1200円、破格の設定》
NEWSポストセブン
「木下MAOクラブ」で体験レッスンで指導した浅田
村上佳菜子との確執報道はどこ吹く風…浅田真央がMAOリンクで見せた「満面の笑み」と「指導者としての手応え」 体験レッスンは子どもからも保護者からも大好評
NEWSポストセブン
石破首相と妻・佳子夫人(EPA=時事)
石破首相夫人の外交ファッションが“女子大生ワンピ”からアップデート 専門家は「華やかさ以前に“上品さ”と“TPOに合わせた格式”が必要」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
中村芝翫の実家で、「別れた」はずのAさんの「誕生日会」が今年も開催された
「夜更けまで嬌声が…」中村芝翫、「別れた」愛人Aさんと“実家で誕生日パーティー”を開催…三田寛子をハラハラさせる「またくっついた疑惑」の実情
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《秘話》遠野なぎこさんの自宅に届いていた「たくさんのファンレター」元所属事務所の関係者はその光景に胸を痛め…45年の生涯を貫いた“信念”
週刊ポスト
川崎、阿部、浅井、小林
女子ゴルフ「トリプルボギー不倫」に重大新局面 浅井咲希がレギュラーツアーに今季初出場で懸念される“ニアミス” 前年優勝者・川崎春花の出場判断にも注目集まる
NEWSポストセブン