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事故を懸念した認知症高齢者の運転免許返納 裏目にでることも

 9月14日、長野県千曲市を走る長野自動車道の追越し車線を逆走した軽乗用車と大型トラックが正面衝突。軽乗用車を運転していた無職の80代男性が死亡。

 7月14日、70代男性が新潟県五泉市の県道で乗用車を運転中、70代女性の軽トラックと衝突。事故後男性は認知症の可能性があると報じられた。

 そして、2012年11月には宮崎県えびの市の県道で、75才(当時)の男性が運転する軽トラックが路側帯に突っ込み、下校中の児童3人を次々にはねた。その1か月前の6月には北海道旭川市で3人が死亡する事故が発生した。事故を起こしたのは当時75才の女性だった。

 このように高齢者が引き起こす交通事故が近年大きな問題となっている。

 相次いだ事故を受けて、国が高齢者に勧めるのは、運転免許証の自主返納だ。1998年に始まったこの制度では、地域の警察署や運転免許センターに免許を返納後、申請すれば、免許サイズの「運転経歴証明書」が交付される。

 免許を返納すれば美術館の入館料や市バス乗車運賃などが割引になる自治体もあるため、自主的に返納する高齢者も増えてはいるが、なかなか浸透していない。2014年の自主返納者は20万人弱にとどまる。

 増大する高齢者の運転リスクに、いっそのこと「一定の年齢に達したら免許を取り上げるべき」との意見も一部からは聞かれるが、それで解決するほど事は簡単ではない。

 まず、地方を中心に自宅近所にスーパーや病院がない地域で車は生活必需品だ。現在は老老介護も増えており、車なしでは生活が成り立たない人も多く、免許返納には高いハードルがある。

 また、現在の高齢者はモータリゼーションの真っ只中を生きてきた世代で車の運転が大好きという人が多い。こうした人から免許を取り上げることは思わぬ悪影響を及ぼす。

 神奈川県在住の40代主婦がつぶやく。

「近所に80代のおじいさんが住んでいますが、離れて暮らす息子さんが運転を心配するあまり、昨年の正月におじいさんの車を勝手に売却して免許も返納させたんです。すると活発だったおじいさんの元気が急になくなり、1年も経たないうちに寝たきりになりました。ある年代の人には免許を持っていることがステイタスのようで、おじいさんは病床で免許を返納したことでもらった運転経歴証明書を名残惜しそうに眺めているそうです。息子さんの心配もわかりますが、年寄りに無理強いするのはよくないですね」

 高齢者にとっての車は単なる移動手段ではないと山梨大学工学部の伊藤安海准教授は指摘する。

「車を運転できなくなると同時に“自分は一人前の人間ではない”と落ち込むかたもいます。ひどい場合はうつ状態になることもある。高齢で仕事をリタイアして社会における役割が減るなか、車の運転は自分が社会人として世間から認められる数少ない証です。ゆえに免許を返納すると、“自分は誰かに頼らないと何もできない人間だ”と自信を喪失してしまうんです」

 認知症を患っている場合、免許返納が完全に裏目に出ることもある。

「軽度認知障害(MCI:認知症の前段階)の段階で免許を取り上げると、認知機能が急速に低下し、重篤な認知症になるリスクが高い。運転しなくなると活動が低下し、脳も使わなくなるので、症状が悪化すると考えられます。早めの免許返納にはそうしたリスクもあります」(伊藤准教授)

※女性セブン2015年12月10日号

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