今や予備群も含めると860万人(2012年)、65歳以上の4人に1人が認知症とされる時代だ(厚労省推計)。初期段階の認知症の“サイン”として重要視されているのが物忘れだ。ただし認知症による物忘れと、老化による物忘れは全く別物だという。国家公務員共済組合連合会立川病院医長(脳神経外科)の福永篤志氏と、これまでに3万人以上の認知症患者の診療経験を持つ「おくむらmemoryクリニック」院長の奥村歩氏(脳神経外科)が具体例を解説する。
【物忘れ】昨日の夕飯、何を食べたっけ?
記憶の3段階(記銘→貯蔵→検索)のうち、検索が上手くいかないことで引き起こされる物忘れ。本当に食べた物の記憶が脳内から消去されたわけではない。タイミングよく思い出せない、いわゆる「ど忘れ」という現象だ。
【認知症】昨日の夕飯、誰と食べたっけ?
「何を食べたか」と同じように思えるが、状況によっては大きな問題になる。
「食べたメニューを忘れるのと違うのは、誰かと一緒に食べるのは特別な行為であることが多いからです。例えば、久しぶりに会った友人との外食という重要なイベントであるにもかかわらず、その食事相手を忘れていればただの物忘れとは言えず、認知症の疑いがあります」(福永氏)
【物忘れ】通っている病院の診察券をよく忘れるようになった。
人間は同時に2つの行動を取る時、1つがおろそかになる傾向がある。財布に診察券を入れ忘れるのは、限られた時間で病院に行く支度をするため、複数のことを同時にこなす際に起きる物忘れと考えられる。
【認知症】隔週火曜日に通っていた病院の通院日をよく間違えるようになった。
人には時間や空間を正しく認識する「見当識」という機能が備わっている。例えば、「今日は月曜日。1週間が始まる」や「私は今、A市の自宅にいる」など、あえて確認をしなくても把握できる感覚をいう。
「認知症になると時間や季節、自分が今いる場所がわからなくなる認識機能の低下が見られます。長年の習慣だった通院日を間違えるようになったのは、見当識に障害が生じている可能性があります」(奥村氏)