――男性の自意識だけでなく、女性も意識を変えるのが望ましいのではないでしょうか。
田中:男性は女性をリードする立場で、たとえばリードする側が告白したり結婚してくれとプロポーズすると思われています。また、それを受け入れてもらえるということが、自分が男として一人前だという認識に繋がりやすい。逆に言えば、女性はプロポーズされたことが、女として認められたという意識に繋がりやすい。
でも、この役割分担も思いこまされているものなんです。男女の関係がもっとフェアなものであったならば、中年男性が自分を客観視しづらいとか、感情を出しづらい、そして生きづらいという状況は回避できるのではないかと思います。
――なるべく男女でフェアにと頭で考えていても、分業が続いていますね。
田中:男の人は仕事をして女の人は家事という分業は、もうちょっと入り混じってもいい。役割分担をしている人の場合、相手が主にやっていた役割を経験してみるということは、お互いの立場を思いやるということにつながりますよ。
――入り混じることで、どんなことに気付けるのでしょうか?
田中:僕自身は外で長時間労働しなければならない職業ではないので、家庭での役割が入り混じっています。僕にとっては自然なことです。男性学を専門にしていることから、男性について語るたび、それは自分に跳ね返ってきます。結果として、自己反省を常に迫られるんですよね。それは、僕にとってはよかったと思います。というのも、男性学に取り組むまでは、けっこうマッチョな発想をもっている人間だったからです。
結論の出方は色々だと思いますが、男性学に取り組み、実際の生活で実践することで生活と仕事のバランスを考えるきっかけになりました。そのおかげで、自分のやりたいこと、自分なりの考えが育ってきた部分があります。だから、こうあるべきだという思いこみをしない生き方、凡庸である自分を受け入れることを男性におすすめしています。
●田中俊之(たなか・としゆき)1975年生まれ。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程修了。博士(社会学)。学習院大学「身体表象文化学」プロジェクトPD研究員、2013年より武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。主な著書に『男性学の新展開』(青弓社)、『男はつらいよ』(KADOKAWA)、近刊に『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス)。