◆北京の「大都市病」が原因
新首都圏開発は北京の大都市病に起因している。北京は改革開放路線推進後の1980年代から、地方の農村部出身の民工(出稼ぎ労働者)らの流入によって過密化が進み、昨年末の人口は約2151万人と膨れ上がっている。
ラッシュ時の地下鉄はパンク状態であり、道路の渋滞もすさまじい。いまは、ナンバープレートの末尾の数字によって、市内での通行を制限しているほどだ。それでも、車の排気ガスによって、ちょっと先も見えないほどの大量のPM2.5(微小粒子状物質)が発生し、多数の市民は呼吸器系等の疾患を抱えているといわれる。
このような重度の大気汚染の緩和に向け、市政府は昨年、400社近くの製造業の企業を市外に移転させたほか、2020年の時点で人口を2300万人以内に抑え、中心部の人口を15%減らす目標を打ち出した。
「世界的にも、首都は『大都市病』という問題に直面している。ソウルや東京、パリなどは副都心の建設によって解決を図ってきた」と北京市政府の担当者は説明する。新宿を副都心と位置づけて都庁を移転した東京の例も念頭に、新たな街づくりによって人や車の流れを変え、問題解決につなげるのだという。
ここで首都機能移転の白羽の矢が立ったのが、大運河が走り、手つかずの自然も豊かで、緑地帯が多い通州区というわけだ。共産党政権は運河同様、北京中心部からの地下鉄や鉄道路線の開発を強力に進め、バスも頻繁に往来させるなど、通州は交通至便で完全なベッドタウンとなっている。このような地の利を生かして計画されたのが首都機能移転による通州副都心構想である。
1995年には約60万人だった通州の人口は昨年135万6000人と、この20年で2倍以上に増加した。
とはいえ、人口が急激に増えたのは、「首都機能移転のうわさが流れた数年前から」(地域住民)である。実際に首都機能移転が正式発表されたのは2015年7月の北京市党委員会の全体会議だった。
そして、北京市の党・政府機関などの行政機関や中央の党・政府機関の一部、および市内の主な大学や国有企業など、「通州区に首都機能を移転し副都心地区を形成する」と正式に発表された直後から地価が急騰した。
それまで1平方mあたり1万元(約20万円)だったものが、9月の段階で6万元(約120万円)と6倍も急上昇した。通州に詳しい北京の知人は「数年前の安い時にマンションを買っておけばよかった」と悔しがることしきりだった。
※SAPIO2016年1月号