「お願いがあります。今度の南アフリカ戦、どうしても勝ちたいんです。何としても勝って、ラグビーの歴史を変えたいんです。日本のみんなの力を貸してくれませんか」
そう言って、廣瀬が練習や研究の合間に電話をかけていた相手。それは、W杯の代表にもれた選手や関係者たちだった。その応援メッセージは11月29日放送の『今だから話せます~スポーツ劇的人生物語』(TBS系)の中で紹介された。
「日本代表の皆さんベスト8目指して頑張ってください! ジャパン! ウェーイ」
「日本の新しい歴史を作ってください」
「日本のプライドを見せてください。GO! JAPAN!」
南アフリカ戦の前日のミーティングで流されたこのVTRから伝わる「歴史を変えたい」という熱い思い――ピッチに立つことは叶わなかったが、廣瀬と同じ願いを持つ仲間たち約700人の熱いエールは、確かにチームの空気を一気に変えた。
そして冒頭のとおり、日本は南アフリカ戦で「奇跡の大金星」をつかんだのだった。そして、この物語には続きがあった。W杯最終戦前日のミーティングでのことだ。
五郎丸歩をはじめ、全メンバーがそろうなか、現キャプテンのリーチ・マイケル選手(27才)から廣瀬へジャージーが手渡された。自分がピッチに立つことをあきらめることなく、毎日猛練習に励む一方で、毎晩仲間のために対戦相手の研究をし、相手のアタックやディフェンスを実践してきた廣瀬。ベンチ入りできなくとも、彼は間違いなく、一緒に戦うメンバーのひとりだったのだ。
みんなの温かい拍手のなか、挨拶をする廣瀬。子供の頃からシャイで、人前に立つのが苦手だ。それにも増して、この時ばかりはうまく言葉がつげない。涙で震える声をふりしぼってこう言った。
「こんな形で(ジャージーを)もらえるなんて全く思ってなかったので、すごくうれしいです…このチームのみんなが好きだから、もう1回頑張りたいなと思ってずっとやってきて、ワールドカップもリーグ戦最後(涙を拭う)…ここまで来れて本当にうれしく思ってます。本当にみんながいたからここまで頑張って来れたし、明日もう1回このジャージーを着て、思いきりラグビーを楽しめる時間がみんなにはあると思うから、その思いをもって戦ってほしいなと思います。本当にありがとうございます」
※女性セブン2015年12月24日号