今夏の「安保法案」でリベラル側は「個別的自衛権の範囲内で対処可能」だと政権に反駁していた。この数十年で、旧来違憲とされてきた個別的自衛権はいつのまにか既成のものとして是認されていた。

 とはいえ、冷戦下の9条遵守は未だにリベラルのある側面を支えているのは事実で、いわゆる「九条の会」が多数の文化人やジャーナリストと両輪する形でその運動を推進しているのは事実だ。しかし2004年に設立されたこの団体は逆説的に教条的護憲の声が風前の灯である事実を際立たせているともいえる。

 ゼロ年代に入り大規模な世論調査で改憲の声が護憲を上回る状態が恒常的となり、その危機感の反映がこのような「冷戦時代には全く存在しなかった」有志団体の設立へと駒を進めさせたのだ。

 かつて総理を経験した村山富市は、今夏「安保法案」の成立にあたり、「筋論で行けば憲法改正が必要」と、改憲是認の発言を行い、鳩山由紀夫はゼロ年代から“新憲法”を提唱している。

 今夏「反安保法制」の中心点の一つにあった学生団体SEALDsの奥田愛基は、小生との対談の中で「国民が望むなら改憲を是認する」(『文藝春秋』11月号)と発言している。もはや護憲はリベラルの中心軸にはない。

※SAPIO2016年1月号

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