私はローマ教皇庁医療国際会議にこれまで4回招待されましたが、そこで聞いた話では、バチカンの大学ではスピリチュアル・ケアワーカーを養成する講座があり、哲学2年、神学4年、医療2年の計8年もかけて学んで資格を取るそうです。

 スピリチュアル・ケアワーカーは別に宗教者でなくてもなれますが、死生観を問われるので、西洋ではキリスト教の聖職者が多く、日本では仏教の聖職者がなるのが適当だと思います。

 日本でも、高野山大学や龍谷大学など仏教系の大学等で、スピリチュアルケアを担当する「臨床宗教師」や「臨床仏教師」の養成が行なわれています。

 当院で臨床仏教実習生が担当していたある患者さんは症状が進んで話ができなくなっていて、筆談になりました。「あなたの考えは浅い」と厳しいことも書かれましたが、何時間も対話して、最後は「また来てください」とお書きになった。

 僧衣で病院をうろつかれると、他の患者さんがギョッとすると思うかもしれませんが、意外とそうでもない。違和感があるなら制服を作ればいいのです。ローマの病院のスピリチュアル・ケアワーカーは、白衣を着て仕事をしていました。

 世界医師会の「患者の権利宣言(リスボン宣言)」には、「患者は、患者自身が選んだ宗教の聖職者による支援を含めて、宗教的および倫理的慰安を受ける権利を有す」とあります。患者さんにとっては宗教者の支援を受けることは、当たり前の権利なのです。

 日本の医療はWHO(世界保健機関)から世界最高とのお墨付きをもらっていますが、唯一の欠陥は、医療現場に宗教者がいないことです。医療という「科学」ではどうにもならなくなった、余命幾ばくもない患者さんを救えるのは、「非科学」である宗教しかないと思います。

 たとえ信仰のない人であっても、自分の命より大事なものがあるのなら、それがその人の「宗教」です。

 私もそれに気づくことができたので、残されたわずかな時間を生きていけると思います。

※週刊ポスト2015年12月25日号

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