唾液は口腔内細菌除去や消化の補助など多くの役割を担う。主な唾液腺は、左右一対ずつある耳下腺、顎下腺、舌下腺だが、それ以外にも口腔内粘膜には、小さな唾液腺も多数存在する。唾液腺腫瘍は、その多くが耳下腺と顎下腺で発生する。主な症状は耳の下や顎の下の腫れやしこりで、昔話の「こぶとり爺さん」のこぶは、唾液腺腫瘍だといわれている。はねだ耳鼻咽喉科(神奈川県横浜市)の羽田達正院長に話を聞いた。
「唾液腺腫瘍の多くが良性ですが、良性腫瘍の中で一番発生頻度が高い多形腺腫は、長年放置すると悪性化することがわかっています。また、腫瘍が大きくなればなるほど、悪性化する率が高まります。一刻を争うわけではありませんが、発見したら2、3年のうちに手術することをお勧めします」
唾液腺腫瘍の診断は、医師による触診のほか、超音波やCT、MRIなどの画像検査を行なう。皮膚から注射針を刺して腫瘍細胞を採取し、顕微鏡下で観察する検査を実施することもある。
治療は良性悪性に拘わらず、手術を行なう。発生頻度が高い耳下腺は、耳前(じぜん)から下方にかけて皮膚直下にある平べったい組織で、おたふく風邪にかかると腫れる場所だ。耳下腺の真ん中を、顔の表情筋を動かす顔面神経が通っている。
顔面神経は脳から出ている12対の神経の一つで、耳の後ろの硬い骨の下から耳下腺に入り、中で3本にわかれ、さらに枝分かれして表情筋まで伸びている。腫瘍は皮膚に近い場所にできる浅葉(せんよう)と深い場所にできる深葉(しんよう)の腫瘍がある。
「手術で難しいのは、顔面神経の存在です。神経を避けて腫瘍を取らなければならないので、顔面神経よりも深い場所にできている腫瘍は、特に注意が必要です。腫瘍が取れても顔面麻痺の後遺症が残っては困るので、神経の枝をすべて確認するために、腫瘍の大きさよりも皮膚の切開が大きくなることがあります」(羽田院長)
多形腺腫は、通常は片側だけに発生するが、ワルチン腫瘍では、両側に発生することもある。
唾液腺には、粘表皮(ねんひょうひ)がんや腺様嚢胞(せんようのうほう)がん、多形腺腫由来がんなど悪性腫瘍もある。悪性度には幅があり、比較的発育の遅い低悪性から急激に大きくなったり、頸部リンパ節に転移を起こす高悪性の腫瘍もある。突然、腫れが大きくなる、顔が動かしにくくなる、痛みを生じるなどの症状がある場合、がんが疑われる。
低悪性のがんの中には、術前検査で良性と思われていても手術後の病理検査で、がんと診断されるケースもある。手術は全身麻酔で行ない、入院は1週間程度、抜糸後に退院となる。しこりや腫れを見つけたら、専門医の受診が欠かせない。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2016年1月1・8日号