小林:なるほど。その考えにはわしも賛成だな。
三浦:「経済的徴兵制」(※貧困層にあるような若者が、生活のために軍隊入隊を選択せざるを得ない状況)などに見られる問題提起は、戦場に赴く兵士を思い遣るところから生じているのではないと思います。貧困問題と、その国の好戦性とを意図的に混同してみせることで政府だけに責任を帰しているのです。
アメリカでは貧困層が仕方なく志願して兵士になっているとたびたび語られますが、そんな事実はありません。アメリカでは男女含めて軍人の子の2割が親と同じ道を選び、兵士になっています。一方の貧困層の人たちは兵士になりたくても麻薬汚染や肥満、犯罪歴などの問題で引っかかって兵士になれないケースが多いんです。
小林:日本には徴兵制はないが、日本人にとって何より大切なのが国を守るという気概を取り戻すこと。
以前、呉で海上自衛隊の潜水艦に乗せてもらったけど、掃除が行き届き、非常に清潔だった。他国の潜水艦はとても汚いらしいからね。日本人に伝統的に備わる規範意識が生きていると感じた。わしは帝国海軍の伝統はまだ残っていると信じている。
三浦:でもSEALDsこそ日本人ですよ。日本人は小林先生のいう伝統を受け継いでいますかね。私はずいぶん前に伝統的な価値観は途絶えてしまったのではないか、と思っているんですよ。
小林:確かにどんどんなくなっているけれど、伝統とは、日本独自の道義やバランス感覚のことです。そのような日本ならではの不文律は残っている。わしはこの不文律を守るのが本当の保守だと思っている。
たとえば、口約束だけで約束を守る、強者や弱者への惻隠の情を持つ、これらは日本人の不文律であって、外国人には分からない。だから白鵬は横綱なのに猫だましを使う。ルール違反ではないけど、弱者の奇襲作戦を横綱が使うべきではないと教えても理解できない。日本人ならその不文律を美学として身につけている。
不文律が生きているのなら、国を守るという気概さえ取り戻せば、アメリカ依存からも抜け出せるし、中国を無闇に恐れる必要もなくなるとわしは思っている。
●小林よしのり/1953年福岡県生まれ。漫画家。2015年は、『新戦争論』『卑怯者の島』『9条は戦争条項になった』『大東亜論第二部 愛国志士、決起ス』を発表。小誌『大東亜論』連載は、第三部「自由民権篇」に突入し、日本の“民主主義”の源流を描いている。
●三浦瑠麗/1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒。同法学政治学研究科修了(法学博士)。現在、東京大学・日本学術振興会特別研究員。山猫総合研究所代表。著書に『シビリアンの戦争』『日本に絶望している人のための政治入門』など。
※SAPIO2015年2月号