「俳優ってアスリートだと思います。若い人も一緒に、一万メートル走を一斉に『よーいどん』というのが芝居なんです。途中で息切れちゃったら、どんどん追い越される。で、誰が一着か二着かはお客さんが判定するんだ。だから、経歴も年数も関係ない。重鎮とか言われるとゾッとする。そういうのを鼻にかけるようになったらお終いです。
セリフもちゃんと喋れなきゃね。舞台だとセリフを覚えて喋るので精一杯で、どうしても硬くなる。柔軟でないのよ。柔軟だと説得力が出てくる。そうなるまで、相当に台本を読み込まないとね。若い頃は二、三日で覚えられたセリフが今は一か月かかります。でも、そのお陰で気づいたことがあります。
それは、時間をかけて覚えたらセリフが自分の言葉になって、自由に手とかも使えて、説得力が出てくる、ということ。普段の言葉って身振り手振りも交えながら喋っているからね。そうやってセリフを上手く喋る役者が舞台にいると、芝居は面白くなる。
そのためには、普段からとにかく体を動かすことは心がけています。若い頃、時代劇に初めて出るようになって、とても苦労した。新劇の俳優って理屈ばっかり言って機敏な動きというのが不得手だから。
今でもスポーツクラブに行ってエアロビクスをやっています。上級コースで体をぶん回されて圧迫骨折したこともあったけど、今はもうなんでもない。ずっと芝居を続けていたいからね」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬上家の一族」』(ともに新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2016年1月15・22日号