芸能

故加藤武さん 「芝居しないで芝居する」が永遠のテーマです

 日本の映画史を彩ってきた名優が、2015年に何人も亡くなった。そのうちの一人、文学座の舞台で役者デビューし、黒澤明監督作品や市川崑監督作品など多くの映画にも出演したのが故加藤武さんだ。加藤さんが生前語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。(文中敬称略)

 * * *
 2015年も多くの名優がこの世を去った。加藤武もその一人(享年86)。以前に本連載にもご登場いただいており、追悼の想いを込めて、この名優の言葉を改めて振り返りたい。

 加藤は80歳を大きく超えてもなお、文学座の代表として、亡くなる直前まで現役の役者として舞台に立ち続けていた。自分より年上の役者と共演する機会もなくなった。そうした中でいかに自らを律するのか。心構えについても、聞いている。

「一番上になっちゃうと、誰も何も言ってくれない。怒る人がいないんだよ。だからといってイイ気になっちゃダメ。自分で『こんな芝居ではダメだ』という意識を絶えず持っていないと、俺はもうそこでストップする。

 実は、怒ってくれる人は一人だけいますよ。文楽の竹本住大夫師匠。この人の浄瑠璃をちゃんと聞いていると、自分が怒られている気になってくる。浄瑠璃と芝居は違うけど、根は同じなんだ。だから、『芝居だったら、今まではこうしてきたけど、本当はこういう風にやらなきゃいけないんだ』って教えてくれる。

 住大夫師匠が杉村春子さんの芝居を観ていみじくも言っていました。『あの人は芝居をせんと芝居してはりまんな』と。名人が名人を賞した言葉で、ずしっと来た。『芝居しないで芝居する』って、俺はとても出来ないけど、永遠のテーマですよ」

 加藤は80歳近くなっても大河ドラマ『風林火山』で猛々しい武将の役を演じたり、晩年になっても劇場の隅々まで地声を響き渡らせたりと、その肉体は衰えを知らないように思えた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
悠仁さまの「加冠の儀」に出席された雅子さま(時事通信フォト)
《輝きを放つシルク》雅子さま、私的な夕食会で披露した“全身ゴールド” ファッション専門家「秋を表現された素晴らしい一着」
NEWSポストセブン
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
クイズ企画が人気を集めている『新しいカギ』の特番が放送される(公式HPより)
《1コーナーから2時間特番に》『新しいカギ』「高校生クイズ何問目?」が高校生から高い支持 「純粋にクイズを楽しめる」「負けても納得感」で『高校生クイズ』との違いも 
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
「パー子さんがいきなりドアをドンドンと…」“命からがら逃げてきた”林家ペー&パー子夫妻の隣人が明かす“緊迫の火災現場”「パー子さんはペーさんと救急車で運ばれた」
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン