◆茨の道へ進む「新しい台湾」
これほどの熱狂は、次第に強くなっていく台湾人意識と無関係ではない。外省人(大戦後、蒋介石と共に大陸からやって来た中国人)の一族出身である総統の国民党・馬英九氏は、急激な中国への接近政策を推し進め、2か月前に、ついに中国の習近平国家主席との「中台トップ会談」を実現させていた。シンガポールでおこなわれたトップ会談は、血で血を洗うあの国共内戦以来、初めてのことだ。両者は“ひとつの中国”で合意し、世界をあっと言わせた。馬氏は、外省人としての大陸回帰への願望を「最後に」具体的な形として表わしたのである。
このままでは、台湾は中国の一部になる。それは台湾人にとって、自らのアイデンティティと、台湾が長い闘いの末に勝ち取った「自由」と「民主」の終焉を表わすものでもある。
国民党によって2万とも3万とも言われる台湾人が虐殺された1947年の228事件、1987年まで38年間も続いた世界最長の戒厳令……結社、表現、思想など、蒋介石一族の支配の下、あらゆる自由を奪われていた台湾人は、中国に呑み込まれることが「何を意味するか」を知っている。
「台湾人は台湾人」
私は今回、その言葉を何度聞いただろうか。選挙もない共産党独裁国家と“ひとつの中国”をどう形成するのか、という台湾人の激しい怒りを私は肌で感じていた。その台湾人の意思は、恐ろしいまでの選挙結果となって現われた。
国民党・朱立倫候補に300万票以上の大差をつけ、蔡女史は689万票を獲得して圧勝。さらに立法院選挙では、民進党が40議席から68議席へ大躍進。過半数を11議席も上まわる安定多数を一挙に獲得したのだ。まさに“地滑り的勝利”だった。
「台湾はこれからも台湾であり続ける」
それは、台湾人による強烈な意思表示にほかならなかった。