「吉田のおじちゃん、助けて!」
シートにうずくまったまま、しぼり出すような声で叫んだところで目が覚めました。とっさに額と膝に手を当て、感触を確かめました。額が汗でぐっしょりと濡れていましたが、どこもけがはしていません。
「なんだ、夢か」
外の空気を吸おうと、ため息をつきながら車から降りた私は、思わず声を上げていました。窓ガラスについた無数の手の跡が、車のルームランプに浮かび上がっていたのです。私はもう必死で実家まで車を走らせました。
次の日、実家に吉田さんが来ました。あの「すいかおじさん」です。両親が一緒に出かけると言うので、行き先を聞くと、
「田中さんの家」
と言うのです。
「米屋の田中さんが交通事故で亡くなって、今日は四十九日法要なんだ」
聞くと、事故現場は私が車を停め、悪夢を見たところでした。雪のせいで手の跡は消え、両親に話しても信じてもらえませんでしたが、あれは死者の誘いだったのか、それとも警告だったのでしょうか。
※女性セブン2016年2月11日号