球界に君臨する巨人への反発心から、悪態をつくことも許されていた時代は終わった。それはプロ野球というスポーツが成熟し、幅広いファン層を獲得したための「観戦マナー重視」という面もあるだろう。
しかし一方で、この風潮を招いたのは、巨人にかつてのような存在感が薄れたことも決して無縁ではないはずだ。「強敵不在」が、野球ファンの考え方まで大きく変える結果となったのである。
今後も巨人が「球界の盟主」を自任するならば、この現実からは目を背けてはならない。アンチ巨人という、潜在的な“最大のファン”を失った影響は大きい。漫画家のやくみつる氏がこう語る。
「確かに巨人は絶対強者じゃなくなりました。でも、昔のようなアンチ巨人の火を消してはいけません。連中は何をしでかすかわからないから、監視の目を怠ってはいけない。常に悪いたくらみをしているのが巨人ですからね」
熱狂的な阪神ファンとして知られるダンカン氏が続ける。
「本音をいえば、阪神ファンとしては、巨人には死ぬほど強くあってほしい。上から目線の巨人が好き。それを阪神が叩きのめすのが気持ちいいんです。巨人が憎いくらい強くないと、野球が面白くない」
こう語ってくれるファンは、巨人にとって、そして球界にとって本当にありがたい存在なのかもしれない。
※週刊ポスト2016年2月12日号