もう小説を書くことはないと思っていたが、老後を前に妻の国民年金が6万円にも満たないことが発覚。自分自身も会社勤めは18年だったため、年金は当てにならない。残された道は「書くしかなかった」。

「どこかに小説への未練が眠っていたのかも。それが、女房が食えないぞと思ったとき、どーんと噴き出した。純文学時代は、外からの刺激は全部受け入れなければと思いつつ、その意識が逆に鎧となっていた。ところが書かなかった10年は無防備だったので、世の中の事象がぐさぐさ入ってきた。

 あきらめた途端、書けるようになったのはその差だと思います。時代物を選んだのは“柵”をもうけたかったから。何でもありの純文学のつらさは身に染みていますから。でも柵を作りつつ、その中に収まりたくない自分もいて、やっぱり売れ筋は書けないんですね」

 最初に書いた時代小説『白樫の樹の下で』で松本清張賞を受賞。順風満帆かと思いきや、本は売れなかった。時代小説6作目となった前作『鬼はもとより』は各書評で評価され、直木賞の最終選考にも残ったが1万500部どまり。青山さんの時代小説には、いわゆる歴史的スターは登場しない。そこが魅力なのだが…。

「年2冊書いても、年収は100万ちょっと。やっていけないですよね(笑い)。直木賞をいただいた『つまをめとらば』も含めて、私の短編集で一貫しているのは男と女です。“点”で生きている男は、点と点の間、何もしていない空白期は自分に自信が持てない。一方、女は生きているから生きている。始めから“線”なんです。だから安定している。そこを弱い男と強い女みたいには書きたくない。人間をこうだという価値観に当てはめるのは楽ですけど、つまらないじゃないですか」

(取材・文/中村計)

※女性セブン2016年2月25日号

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