昨年、M.デムーロとルメールがJRAの所属になり、他にも多くの外国人ジョッキーが短期免許で来日しています。だからといって出稼ぎ気分で稼げるほど甘い世界ではありません。
レースは数分。「一年を十日で暮らすいい男」というのは江戸時代の力士への賛美(嫉み?)ですが、騎手も似たようなことを言われます。
しかし彼らのメンタル面を考えると、こんな苛酷な生業もありません。言葉の通じない動物に命懸けで騎乗し、着順が明確に出る。信じられないような末脚で差しきるときもあれば、スタートで大きく出遅れることもある。歓喜や失意や後悔が全身を巡る。ファンからも「へたくそ!」「金返せ!」という罵声が飛ぶこともある。それでも続けて騎乗するときは、また観衆の前に出なければならない。この繰り返し。
馬と同じく、自分の心をいかに御せるか。やはりメリハリが大事なのですね。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後14年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。競馬の他、馬文化普及や障害者競馬などにも尽力している。主な管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイアなど。
※週刊ポスト2016年2月19日号